セカンドマリッジリング ―After story—
「社長になるのは涼真兄さんだ。あの人は絶対に帰ってくる、俺が代わりにその場所に立つ必要なんかない」
颯真は涼真の帰る場所を失くしてしまうような事はしたくなかった、一度でも代理として涼真の代わりを務めればきっと彼は戻って来られなくなってしまう。兄はそういう性格の人間だと颯真が一番分かっていたから……
責任感の強い涼真ならば、彼の席がずっと空きのままであれば必ず戻ってくる。それを両親や妹の真由莉が信じて待とうとしないことが歯痒くもあった。
「でも……っ、私は颯真兄さんの方が社長になるべきだとずっと思ってた! 颯真兄さんが社長になって、それで……」
「真由莉、それは違う。兄さんには次期社長として必要な知識と、これまでの経験や彼が広げてきた人脈。俺が持たない次期社長として必要なものを彼はすべて持っている、そうだろう?」
真由莉だってこの深澤の家で育ってきたのだ、本当は颯真と涼真のどちらが会社を継ぐべきかなんてわかっているはずだ。それでも諦められないのは――
「でもっ! 兄さんが社長になってこの家に戻ってくれば私が兄さんの力になれる……だって、だって私が一番颯真兄さんの事を理解してるもの!」
「真由莉……」
両親は涼真や颯真を厳しく育てたが、会社を継ぐ可能性のない真由莉に対してあまり関心がなかった。子供の頃からあまり構ってもらえずに寂しい思いをしていた真由莉を、颯真は兄として放っておけなかった。
そんな颯真に真由莉が特別な執着心を抱くまでそう時間はかからなかったのかもしれない、颯真がその事に気づかなかっただけで。