セカンドマリッジリング ―After story—
「何度も言いますが花那は俺の妻で、誰よりも大事な家族です。それを認めてくれないならば、これから先は自分も深澤の家の為に何かしようとは思わない」
「颯真、なんてことを! そんな言葉をあの人が聞いたら、きっと……」
そう言った母の顔色は青白く、怯えているようにも見える。……いつだってそう、颯真の母は夫である深澤 斗真の言いなりだ。
颯真に父である彼は経営者としての能力も高く、やり手の社長だということだけではない。自信に満ち溢れ威厳ある態度を崩さない斗真に、妻のしず香は結婚して一度だって歯向う勇気など持てるわけもなかった。
「俺の意見によって父さんが何と言おうと構わない。母さんはあの人が怖ろしいから、俺の意思を無視して言うとおりにさせているだけだ」
「そんなつもりはっ! 私はただ……」
反論しかけたしず香だったが、それ以上は何も言えなくなってしまった。颯真の言ったことは事実で、自分の身を守るために彼女は自分の子供を利用しようとしていたようなものだから。
ある意味、可哀想な人だとも颯真は思う。ずっと自分を犠牲にしてきて、彼女はもう自分の意志が斗真の思い通りに塗り替えられてしまっているのだから。
「もういいでしょう? 俺は家族を傷付けるためにここに来たんじゃない、ただ花那を連れ戻しに来ただけ。だから俺たちの家に帰ります、行こう花那」
「颯真さん……」
まだ何かを言いたげだった真由莉と俯いてしまった母をその場に残して、颯真と花那は深澤の屋敷を後にした。