セカンドマリッジリング ―After story—
出会ったときはお互いがこうして想い合うなんて考えもしなかった。利害で結ばれた関係だからこそ、花那はずっと終わりを覚悟していたのだから。
少しずつ想いが育っていくのを隠しながら、別れのための準備をして……その辛さも彼女は忘れていない。だからこそ、もう自分の気持ちを隠したりしたくないのだろう。
「元カレよりも?」
「颯真さんを誰かと比べたことなんてないわ、そんなの意味ないもの」
花那に借金があると知ってすぐに別れを告げた男に未練などあるわけもなく。今の自分の気持ちは夫である彼にしか向いていない、花那にとってはそれだけなのだ。
颯真はそうやって妻の昔の恋人に嫉妬するが、花那は現在進行形で心配させられることばかりなのだが。近頃は笑顔も増えて話しかけやすくなっているようで、職場やその他の女性からのアプローチも少なくないようだ。一度はプレゼントを貰って帰ってきたことがあり、花那が拗ねるとその次からは断ってくれるようになった。
「ヤキモチを妬きたいのは私の方、颯真さんは自分がどれだけモテるのか分かってないんだもの」
「……こんな不愛想な男がいいって言ってくれるのは、君だけだ。普通の女性はすぐに愛想をつかすよ」
颯真は苦笑いしながらそう話すが、そんなことはないと花那は思う。確かに愛想のいい人だとは言えない、だが彼の言葉少なな優しさもどれだけ心が温かい人なのかも、もう彼女は全部知っているから。
そんな彼に惹かれる女性が自分だけなわけないのに、と思ってても口には出さないでいるのだけれど。
「そろそろ、ペンションに着く。先輩も美海さんも心配してたから、早く安心させないと」