セカンドマリッジリング ―After story—
あれだけ心配していたにもかかわらず、名賀夫妻が颯真や花那に今回の事を根掘り葉掘り聞くようなことはしなかった。ただ怪我はしてないか、気持ちが不安定になってないかと優しい言葉は何度もかけてくれたが。
二人がテーブルにつくとすぐに温かな夕食が準備され、お腹が満たされた頃には風呂に入ってくるようにと名賀と美海にリビングから追い出されてしまった。
「余計なことを聞かないように気を使ってくれたんだろう。本当は気になっている筈なのに、そっとしてくれるところがあの二人らしい……」
「そうね、私もどう話せばいいのかと迷っていたの。名賀さんにも美海さんにも気を使わせてばかりで申し訳ないわ」
別々に風呂を済ませた後でようやく気が抜けたのか、颯真と花那は二人してベッドに倒れこんでいた。
颯真と結婚して、それまでの花那の人生だったなら経験できないような事ばかりがその身に起こっている。良いことも、悪い事も……信じられないようなことも。
それでも彼女が何の迷いもなく颯真と一緒の人生を歩んでいきたい気持ちは今も変わりはしない。最初の五年は一人では乗り越えられない結婚生活だったが、今度は二人で力を合わせられるからかもしれない。
「……すまない」
突然、静かな声で告げられた謝罪に花那は戸惑う。その言葉にどういう意味があるのか、つい深読みしてしまい不安になったのだ。もし夫の負担になる妻だと思われたら、別れの言葉を口にされてしまったらどうすればいいのかと花那の頭の中がグルグルしてくる。
「それは、何の謝罪なの?」
震えそうになる声をなんとか誤魔化して、いつもと変わらない落ち着いた口調で花那は聞き返す。やっと気持ちが安らいできたのに、その空気を自分から壊したくなかったから。