ショウワな僕とレイワな私
「とにかく、ここは寒いから居間へ行こう」

清士は咲桜を立たせてゆっくりとリビングへ歩いていき、咲桜と隣り合わせでソファーに座った。いつも本を読んだまま寝ている時に学校帰りの咲桜に掛けてもらうブランケットを咲桜の膝に掛けた。咲桜はまだ少しボーッとしたままで、何が起きたのかを把握しきれていないような様子だった。清士は咲桜の頬を流れる涙を拭う。

「どうして君は倒れるまで無理をするんだ、万が一のことになってしまったらどうするつもりなのか……」

咲桜は涙を流しながら仕方ない、というように笑う。

「成田さんを巻き込みたくないから……成田さんがいつでも気兼ねなく帰れるように、迷惑かけたくなかったの」

「咲桜さん、そう思ってくれるのは嬉しいが、僕は咲桜さんが心配でならないよ」

清士は、泣いているせいなのか寒いのか少し震えている咲桜の肩を撫でた。

「何で私のこと、心配してくれるの?こんなに不出来で頼りなくて、ダメダメなのに。ずっと怯えてばかりで自分でも嫌になっちゃうくらいなのに」

咲桜は目にたまった涙を拭きながら清士に尋ねる。

「君は不出来でも何でもないよ、自立した立派な女性だ。しかし、だからこそ僕は咲桜さんが心配なんだ、君はもっと人を頼るべきだ。今の君は、君だけでは到底耐えられぬような苦しみに追われている。その苦しみを(こら)える咲桜さんの姿を見ていられるものか」

清士の強い訴えに、咲桜は心を打たれた。自分のことをここまで気にかけてくれる人は初めてだった。ずっと「できる子」「頑張る子」として育てられ、そう見られてきた咲桜にとって、人を頼るということは確かに不慣れなことだったし、これ以上この状態に耐えようとしても、恐怖で押しつぶされてしまいそうな気持ちだった。

「ありがとう……成田さん」

咲桜はぼろぼろと涙を流した。こんなに自分のことを心配してくれる人が近くにいて嬉しいと、ただひたすらにそう思った。

「私、もう耐えられないほどきつかったけど、頑張りすぎてたみたい。成田さんに言ってもらえて初めて分かった。これからは……もっと成田さんを頼りにする」

清士は泣きじゃくる咲桜に腕を回し、背中をとんとん、と優しく撫でた。

「よく頑張った、よく、よく頑張った。咲桜さんの側には僕が付いているからね」

2人はしばらく抱き合っていた。
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