ショウワな僕とレイワな私
咲桜は家に入ってすぐ、リビングへと向かう。清士と一緒に白い封筒を開けることにした。

「……何、これ……?」

封筒には便箋が1枚と、写真が3枚入っていた。

『咲桜、俺のわがままで勝手に出て行ってごめん。半年間離れて、咲桜が俺にとってどれだけ大事だったかやっと分かった。それで何回も電話したんだけど全然繋がらなかったから、郵便受けにこれを入れておいたよ。それと最近一緒に歩いてるのは誰?まさか俺がいるのに浮気してないよね? 大翔(ひろと)

写真は裏面に日付と時間と場所まで書いてあった。

「2023年10月19日0時45分東京駅から咲桜の家方面、猫を見る咲桜」
「2023年10月22日1時3分咲桜の家の前」
「2023年10月26日22時32分八丁堀駅」

3枚目の写真には、清士のことを指して「誰?」と書いてあった。

「どういうことだ、これは変質者じゃないか」

「この19日の写真……私が後ろから付けられてるって思った日のだ」

咲桜はやはりあの日に誰かが後ろからついて来ていると思ったのが思い込みではなく本当のことだったと分かったと同時に、それが元彼であったことに恐怖した。清士も咲桜が半年前まで元恋人と同棲していたことは知っていたので、手紙を読んで送り主が彼であるとすぐに分かった。

「警察に届けたほうがいいかな」

咲桜はこの封筒と前に何度もかかってきた電話を証拠として警察署に相談することにした。清士は咲桜が不安そうな表情を全く見せず、むしろしっかりとしているので、また自分に迷惑をかけまいと痩せ我慢をしているのかと思った。

「咲桜さん、つらければ僕にいつでも言うんだよ」

咲桜は写真を封筒にしまう手を止めずに話した。

「大丈夫、本当に大丈夫だよ。半年前に別れたはずなのに、まだ別れてないみたいな言い方して、しかも成田さんのことを浮気相手なんてひどい呼び方して、もう色々通り越して呆れた」

封筒の中身を全部しまった咲桜は、清士に向き合って付け加える。

「それに、今の私には成田さんがいるから。私ね、成田さんがいれば大丈夫、何も怖くないって思える」

「咲桜さん、それは……」

清士は健気に勉強や家事をこなし日々溌剌(はつらつ)としていた咲桜の姿や、落ち込みながらも徐々に立ち上がっていく咲桜の姿を目の当たりにしてきたことで、咲桜に勇気づけられた一方で、恋心も抱いていた。そのせいか、少し咲桜から好かれることを期待してしまっていた。

「いつもありがと」

咲桜は少し恥じらいながらも、いつも支えてくれる清士に感謝した。
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