ショウワな僕とレイワな私
咲桜は大翔が警官に取り押さえられたのを見て、それまで浅かった呼吸を戻すようにふうっと息を吐いた。足に力が入らずにふらついた咲桜を清士が支える。

「すみません……突然のことでびっくりしてしまって。成田さんも、ごめん……私が早く帰ってればこんなことにならなかったし、成田さんにも警察にも迷惑かけなくて済んだのに」

「一番怖かったのは咲桜さんだろう、僕は平気さ」

清士はうなだれる咲桜の肩を撫でた。寺田もその場にしゃがんで咲桜に目線を合わせる。

「私たち警察は地域の皆さんの安全を守るのが仕事ですから。全く迷惑なんかじゃありませんし、むしろ大事に至らなくて良かったと思います……ちょっと離れますけど、ここにいてくださいね、また戻るので」

寺田は他の警官と大翔の元へ向かった。

「拳銃の他に武器はないな……身分証明できるものあったら見せてもらっていいですか、確認させてください」

自転車でパトロールをしていた中年の警官は大翔に身分証明を求めたが、大翔は財布を持っていなかったので、名前も住所も職業も、何も証明できない状態であった。

「現行犯だな」

中年の警官は応援で駆けつけた男性警官と寺田にだけ聞こえるように言って、大翔を現行犯逮捕した。大翔はうなだれた様子で、全く抵抗しなかった。大翔と男性警官がパトカーに乗り込んだところで、寺田が咲桜と清士のもとに向かう。

「大戸さん……と同居人さん、もしよければ事件の詳細についてお伺いしたい点がいくつかあるのでご同行いただけませんか。一応この辺りにある防犯カメラは解析しますが……特に同居人さんからどのような被害を受けたかお話いただけたらと思います。大戸さんも、こちらの準備が可能で大戸さんが希望されるのであれば被疑者と話し合いができるようには調整してみますが」

咲桜はごくりと唾を飲んだ。確かに大翔と話をつけたいとは思っていたが、目の前で庇ってくれた清士に拳銃を向けたような人間だ。大翔の発言を聞いて少し(ひる)んでいたが、ここで何も言わずにはいられない。咲桜は呼吸を整えて寺田に体を向けた。

「行きます。私」

寺田は咲桜の目を見て、この人は覚悟を決めていると分かった。署に相談に来た時のような怯えた様子は全くなく、自分でこの問題を解決しようという意思が現れていた。

「成田さんも。辛くなかったら警察の方に話してあげて」

清士は咲桜の言葉に大きく頷いた。

「僕も行くよ。ここで起きたことはみな詳細に話します」

大翔と2人はそれぞれ現場から近い中央警察署に向かった。
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