ショウワな僕とレイワな私
「そうだなあ、咲桜さんの言う通りだよ。僕はこの時代の人間ではないからだな、咲桜さんにとって僕は迷惑かい」

咲桜は沈んだような清士の口調にハッとした。

「ううん!迷惑だとは全然思ってないし、何より……」

何かを言いかけて黙り込んでしまった咲桜を見た清士は、歩みを止めて咲桜の話に耳を傾けた。

「成田さんがいなかったら……私、ダメになっちゃってたかもしれないし……成田さんが来てくれて安心した」

事件から警察署を出るまでに包まれていた緊張感から放たれた咲桜の目から安堵(あんど)の涙が流れ、清士はその涙をぬぐい、咲桜を抱きしめた。

「咲桜さんには僕がついているから、大丈夫だよ」

清士は咲桜の背中を優しく撫でて、「うちへ帰ろう」と咲桜を促した。

家に帰った清士と咲桜は早速ダイニングで、取り調べに向けてそれぞれに必要なことを始めた。清士取り調べで何を話すかを考えることにし、咲桜は大翔に対して伝えることをノートに書き始めた。

「そういえば咲桜さん、警察の方達は僕のことを『同居人』と呼んでいたが、咲桜さんがそう説明したのかい」

ノートに書くことを考えてペン回しをしていた咲桜の手が止まった。相談に行った時に同居している人がいると書いたら、誰と同居しているのかと聞かれて、混乱しながらルームメートや間借り人、同居人などと言ったのを思い出した。

「あ、えーと……同居してる人がいるかって聞かれて、いるって言ったら『同居人さん』って呼ばれるようになったみたい。名前も聞かれなかったし、まさか同棲してるなんて言えるわけないでしょ、そもそもそういう間柄でもないし」

「『そういう間柄』とはいったいどんな間柄かい」

清士は半分身を乗り出すように尋ねた。

「え、いや、深い意味はないけど!」

食い気味に()かれた咲桜は、慌てた調子で誤魔化した。

「うーん、よく分からないが……それにしても咲桜さん、確か僕たちが出会った日に、一泊だけさせてくれると言っていたような気がするが……気がついたら僕は1ヶ月もお邪魔してしまっているな。初めて咲桜さんに会った日のあの調子だと僕は早々に追い出されるかもしれないと思ったんだが、案外優しい人だ」

清士は椅子に座り直しながら咲桜に笑いかけた。咲桜は突然向けられた笑顔に一瞬目を丸くした。

「成田さんには家事とか送り迎えとかしてもらってるし、いっぱい話も聞いてもらってるし……それにやっぱり行くあてがないでしょ」

咲桜は清士から優しいと言われて内心照れくさい気持ちだったが、それを隠すように目を逸らした。

「もし咲桜さんが望むのなら僕は出て行くし元の時代にも帰るよ、咲桜さんなら元の時代に帰る方法も知っているだろう」

清士の「帰る」という言葉を聞いて、咲桜は思わず「えっ」と声を漏らした。

「知ってるけど……いま成田さんが帰っちゃったら困るよ、それにいつも私のそばにいるって言ってるじゃん」
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