ショウワな僕とレイワな私
清士は普段はしっかりしている咲桜の幼いような部分を突然見せられて、驚きながらも、どこか嬉しいような気がした。

「咲桜さんは可愛らしい人だな、本当に」

はにかみながら咲桜に目を向けた清士は、また鉛筆を握って書き物を始めた。咲桜もまたノートに何を書くかを考え始めた。咲桜の口の端には少し笑みが浮かんでいる。しばらく2人は静かに書き物や考え事をしていたが、その静寂を破るように咲桜が口を開いた。

「成田さん」

「なんだい」

清士は鉛筆を置いた。

「事件のとき……成田さんが私を大翔からも守ってくれていて、それで……私が成田さんの人だとか何とかって言ってたっけ」

「……そうだな、言った……はずだ」

清士は不意にそのことを聞かれて明らかに動揺した。

「それってまさか」

咲桜の思う通り、確かに清士は咲桜に対して恋愛感情を持っていたが、清士には違う時代の人間同士でそのようなことが許されるのか分からず、気持ちを伝えるべきかどうか決めかねているところがあった。もし気持ちを伝えて良いのであれば絶対に自分から伝えたいと思っていたが、どうして良いか分からず曖昧にしていた。

「女性を守るのは男として当然の務めだからな。それにあんな変質者が身の回りにいては休まらないだろう。ただの台詞さ」

「ふ〜ん、そうなんだ。まあいっか」

咲桜は清士が何かを隠しているのは分かっていたが、あえて触れずにノートに大翔に伝えることを書いた。清士も少しモヤッとした気持ちを持ちながらも続きを考えた。2人は夜通し作業を続けて、いつの間にかそのまま寝てしまった。

「ん……」

朝日の眩しさで目が覚めたのは咲桜だった。机にうつ伏せで寝ていたせいで背中から首が固まって痛い。ゆっくりと伸びをして、コーヒーを淹れた。机の上を片付けて寝室に行き、今日の講義を確認してバッグの用意をする。咲桜は午前中の講義だけを受けて、午後から警察署に行くことにした。余っていたノートに書いた大翔へのメッセージを読み返す。確かに最初は大翔のことが好きだったはずだが、どこからこんな風になってしまったのだろうか。他の女の影もなければ、暴力を振るわれたこともなく、本当に優しくて朗らかな人だった。少し優柔不断なところもあったが、それも可愛いような気がしていた。それなのに、突然別れようと言って家を出て行ったと思ったらストーカーになって再会して、清士を脅迫して……。咲桜には大翔がどうして今回のような行動に出たのかを知りたいという気持ちはあったが、それ以上に清士に迷惑で失礼な行為をしたことが許せなかった。咲桜はノートをパタンと閉じて、教科書と一緒にバッグに入れた。
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