ショウワな僕とレイワな私
「通常ですと再発行ということになります。まずはお客様からきっぷをどの駅で購入されたかということや当駅に到着されるまでの経緯などについてお話ししていただいてからになりますが……あ、あちらの男性ですかね」

清士は改札に向かって走った。駅員も早足で改札へ向かい、女性もその後を追った。

「きっぷ、見つかりました?」

「いや、見つかりませんでした……って、お嬢さん、まだいたんですか」

清士は女性がその場にいたことに驚いた。外は暗いようだったから早く帰らないとならないのでは、と少し心配になった。

「お兄さんがなんとなく駅に不慣れな感じがしたので。一応駅員さん呼んどいたんで、再発行か何かしてもらってください、それじゃあ」

女性は駅の出口に向かって歩き出した。スマートフォンのロック画面には22時過ぎの時刻が表示される。いつも終電で家に帰る女性にとっては、今日は少し早く家に帰ることができるチャンスだったが、これ以上彼に付き合っていると、またいつもと同じ時間に家に着くことになってしまうと思った。帰り道にコンビニにでも寄って何か買って帰ろうかなと考えていると、不意につい何分か前に話した駅員の声がした。

「お客様、あちらのお客様があなたの方を指して『お嬢さんを呼んでくれないか』と仰っていますが」

「あちらのお客様」というのは紛れもなく道案内をした挙句きっぷを無くした怪しい男である。女性は小さくため息をついて改札へ戻った。

「今度は何ですか」

清士は申し訳なさそうに女性に話しかけた。

「男としてお嬢さんにこんなことを言うのは気が引けるが……いくらか貸してはくれまいかとも思いましてね、切符の代金を」

女性は本当は人にお金を貸したくなかった。ましてやどこの誰かも知らない人だ。きちんと返してもらえる確証もないのに貸したくない。でも、こんなことを言うと余計に面倒なことになりそうだったので、女性は仕方なくきっぷの代金を立て替えることにした。

「駅員さん、私が再発行の手続きをしても大丈夫ですか……あの人、お金持ってないみたいで」

女性の鋭い目つきと言葉が清士の心にグサリと刺さった。駅員はその凍てついた空気から逃げるように女性を案内した。

「新宿から東京ですので、200円お支払いください」

女性は、たったの200円かと思いながらも支払った。そして再発行された切符を持って清士の元へ向かう。

「どうぞ。これ使って出てください」

「これを使って出ろと言われても、駅員がいないことには出られないでしょう」

清士はそう言ってなぜか改札を出なかった、というのも、自動改札機の使い方が分からなかった。

「まさか、改札通ったことないんですか?このきっぷを、ここに通して出るんですよ?」

女性は若干頭に来ていた。自動改札機に付いているきっぷの投入口を指差して、通り道を示すように指で道を描いた。清士が改札を出たところで、女性はやっと家に帰れると思い少し安心した。

「あとはタクシーでも使って目的地まで行ってください」

女性はもう話しかけてくるな、もう話しかけてくるなと心の中で念じながら早足で歩いた。
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