ショウワな僕とレイワな私
「強くなれる気がする」
清士と咲桜が家路に着いた頃、警察署に留置されている大翔は寺田から一冊のノートを受け取った。
「大戸さんからです」
表紙には何も書かれておらず、このためだけに用意したようなノートであった。ノートを受け取った大翔は留置場の端に寄って表紙を捲る。早速1枚目の用紙には見慣れた綺麗な文字が隙間なく並んでいた。
『大翔へ 正直どうしてこんなことになったのか、よく分かりません。大翔は急に別れようって私に連絡してきたし、その日から家に戻って来なかったから、最初はちょっと心配だったけど、もう私たちはそれで終わったんだと思ってた。どうして急に別れようって言われたのか分からなかったけど、何か私に言えない事情があったのかもしれないし、ここまでの縁だったと思って、あえて深入りしなかった。大翔も知ってるでしょ、私は来るもの拒まず去るもの追わずな人間だって。半年経って、もうこれでよかったんだってやっと思えたのに、どうしてストーカーなんかしたの?非通知で何回も電話かけてきたのも、私が大学から家に帰る時に後からつけてたのも、あの写真付きの手紙も全部全部、すぐに大翔だと思ったけど、これまでトラブルがなくて円満に別れたと思ってたぶん、すごく怖かった。もう毎日寝れなくなるくらい怖くて、外に出るのも怖かった。
警察の人から聞いたけど、私が成田さんと浮気してるからこないだの行動を起こしたって話したらしいね。いつからそんなことを思い始めたのかは知らないけど、もし私が成田さんといるのを見たからって言うなら、その説明をさせて。手紙に入ってた写真にも成田さんが写ってるものがあったけど、あれは大翔が私にストーカーをし始めて警察に相談したかその前くらいの時に、成田さんの方から私が1人で道を歩かなくていいようにって申し出てくれたの。その時の私は昼でも道を歩くのが怖かったし、せっかくそう言ってもらってるんだから断るわけにもいかないでしょ。それから昨日成田さんに聞いたんだけど、成田さんが言った、私は彼の人だっていう言葉、あれはその場凌ぎのために言っただけだって。まあ、私はもう別れたのに「俺の咲桜」なんて言ってストーカーしてくるような男よりは成田さんの方がすごく頼もしいし素敵だと思うけどね。
とにかく、まだ別れてないと思ってるなら、私から別れを告げるから。もう今後一切連絡して来ないで、近づかないで。あなたは私の信頼する人を罵って脅迫した最低な男だから。もう姿も見たくないし、声も聞きたくない。弁明もいらない。さようなら』
大翔はノートに書き並べられた咲桜の言葉を見て、心にぽっかりと穴が空いたような気分になり、自分が起こした行動の重大さに初めて気がついた。もう咲桜と話すことはできないと思ってしまうほど、普段優しくてちょっと可愛げのあった姿からは想像がつかないほど、彼女の怒りが読み取れる文章であった。
ノートを閉じて上を向いた大翔の頬に涙が伝った。
「大戸さんからです」
表紙には何も書かれておらず、このためだけに用意したようなノートであった。ノートを受け取った大翔は留置場の端に寄って表紙を捲る。早速1枚目の用紙には見慣れた綺麗な文字が隙間なく並んでいた。
『大翔へ 正直どうしてこんなことになったのか、よく分かりません。大翔は急に別れようって私に連絡してきたし、その日から家に戻って来なかったから、最初はちょっと心配だったけど、もう私たちはそれで終わったんだと思ってた。どうして急に別れようって言われたのか分からなかったけど、何か私に言えない事情があったのかもしれないし、ここまでの縁だったと思って、あえて深入りしなかった。大翔も知ってるでしょ、私は来るもの拒まず去るもの追わずな人間だって。半年経って、もうこれでよかったんだってやっと思えたのに、どうしてストーカーなんかしたの?非通知で何回も電話かけてきたのも、私が大学から家に帰る時に後からつけてたのも、あの写真付きの手紙も全部全部、すぐに大翔だと思ったけど、これまでトラブルがなくて円満に別れたと思ってたぶん、すごく怖かった。もう毎日寝れなくなるくらい怖くて、外に出るのも怖かった。
警察の人から聞いたけど、私が成田さんと浮気してるからこないだの行動を起こしたって話したらしいね。いつからそんなことを思い始めたのかは知らないけど、もし私が成田さんといるのを見たからって言うなら、その説明をさせて。手紙に入ってた写真にも成田さんが写ってるものがあったけど、あれは大翔が私にストーカーをし始めて警察に相談したかその前くらいの時に、成田さんの方から私が1人で道を歩かなくていいようにって申し出てくれたの。その時の私は昼でも道を歩くのが怖かったし、せっかくそう言ってもらってるんだから断るわけにもいかないでしょ。それから昨日成田さんに聞いたんだけど、成田さんが言った、私は彼の人だっていう言葉、あれはその場凌ぎのために言っただけだって。まあ、私はもう別れたのに「俺の咲桜」なんて言ってストーカーしてくるような男よりは成田さんの方がすごく頼もしいし素敵だと思うけどね。
とにかく、まだ別れてないと思ってるなら、私から別れを告げるから。もう今後一切連絡して来ないで、近づかないで。あなたは私の信頼する人を罵って脅迫した最低な男だから。もう姿も見たくないし、声も聞きたくない。弁明もいらない。さようなら』
大翔はノートに書き並べられた咲桜の言葉を見て、心にぽっかりと穴が空いたような気分になり、自分が起こした行動の重大さに初めて気がついた。もう咲桜と話すことはできないと思ってしまうほど、普段優しくてちょっと可愛げのあった姿からは想像がつかないほど、彼女の怒りが読み取れる文章であった。
ノートを閉じて上を向いた大翔の頬に涙が伝った。