ショウワな僕とレイワな私
「はぁ……やっと終わった」

家に着いた咲桜は、ダイニングで温かいコーヒーを飲み一息ついた。

「彼に手紙は渡せたのかい」

清士は咲桜が大翔に渡したノートに何が書かれているのかは知らなかったが、警察署を出てからの咲桜のすっきりとした表情を見て、きっと伝えたいことを伝えられたのだろうと思っていた。

「うん。もう関わりたくないって、私から別れてやるって伝えた」

笑い混じりに話す咲桜の朗らかさが、清士にとっては眩しく感じた。

「それは随分と思い切ったことだったなあ」

「そうだよ、あんなにはっきり言ったのって初めてかも。たぶん、大翔も私があそこまで怒ってるのは見たことないと思う」

咲桜もどうしてあれほどにはっきりとものを言えたのか、自分でも見当がつかなかったが、目の前にいる清士を見てその理由がはっきりと分かった。

「きっと、あんな風にちゃんと自分の思ったことを伝えられたのは……成田さんのおかげだね」

清士は何もした覚えがなかったからか、目を丸くした。

「僕は咲桜さんに何かしたかい」

咲桜は「うーん」と考える仕草を見せた。

「何かしたって、まあ普段から色々助けてもらってはいるけど……私ね、なんだか成田さんといると勇気が出てくるっていうか、ちょっと強い人間になれるような気がするの」

はにかみながら話す咲桜だったが、清士にはよく理解できなかった。

「君は実際『強い人間』である必要があるのか」

咲桜は大きく(うなず)いた。

「もちろん。だって、成田さんがいなくなっちゃったら、私は自分の力でまた色々乗り越えなきゃいけないし」

「君は僕が本当に元の時代に帰るつもりだとでも思っているのかい」

清士は咲桜の言葉に思わず席を立ったが、静かに座り直した。

「成田さんにとってこの時代はいいものかもしれないけど、この生活は、本来の成田さんの人生には存在しないんだよ。前も話したけど、成田さんは本当はこの時代にその年齢で生きているべきじゃないし、いつかは元の時代に帰らなきゃいけないの。これは何があっても絶対ね、帰らなきゃいけない」

「……それならば、僕はどうしてこんな時代に来てしまったんだ……咲桜さん、君なら分かるだろう、教えてくれよ。僕がこの時代に来てしまった理由を!」

頭を抱える清士の目には涙が浮かんでいる。清士はタイムトラベルしたばかりの頃は見たこともない景色の連続に戸惑いながらも、咲桜に色々なことを教えてもらって新しい時代に触れられることに感心していたが、次第に時代の違いというものが障壁(しょうへき)となってぶつかってくるのを感じていた。
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