ショウワな僕とレイワな私
清士は咲桜に手を引かれるままについて行ったが、これまで通ったことのない場所ばかりで東京駅に辿り着けるか不安になっていた。
「咲桜さん、道を間違っているなんてことはないだろうな」
「大丈夫。あとちょっとで着くから」
半信半疑の清士だったが、しばらく咲桜の後をついていくと、そこには見慣れたはず駅の景色があった。
「これは……」
思わず息を呑む清士を見た咲桜は嬉しくなった。
「東京駅。これは10年くらい前に復原された建物だけど……どう?懐かしいような感じがするでしょ?」
ふたりの目の前には、温かみのある白いライトに照らされた駅舎の姿があった。
「ああ、とても綺麗だ。この景色を最後に見られるとは……僕は幸福者だ。心から礼を言うよ」
最後に笑顔を見せてくれた清士を見て、咲桜はほっとした。
「よかった、私も成田さんが喜んでくれて嬉しい」
清士と咲桜は足並みを揃えて駅に入り、清士は切符を買って改札口へと向かう。咲桜も電車に乗るつもりはなかったが改札に向かった。
「咲桜さん、君も付いて来て良かったのかい」
改札を通ったものの心配そうに振り返る清士を見て、咲桜はすまし顔をした。
「私が見送りたくてついて行ってるだけだから」
咲桜は清士に追いつくように小走りで改札を進む。ホームまでの道のりは咲桜にとっては悲しい別れの道に、清士にとっては覚悟を決め最期を待つ道となり、決して楽なものではなかった。今からでも後ろに一歩下がれば、悲しい思いをせず、命を失わずに済む道である。しかし、ふたりは並んでも互いに何も言わず、ただ前を向いて歩き続けるのであった。ホームに着くと同時に咲桜は深く息をついた。これが本当に最後の別れである。清士は何も言わず立ち止まっている。
「成田さん」
咲桜が呼ぶと、清士は薄く笑みを浮かべた表情で向き合う。
「今まで……ありがとう。本当に大変だったと思うし、私もたくさん迷惑かけちゃったけど、成田さんのおかげでここまで来れた」
清士はしばらく黙って咲桜を見ていたが、ゆっくりと2回瞬きをし、ポケットからきらりと光るものを出した。
「咲桜さん、これは僕と出会ってくれた印だ。受け取ってくれないか」
咲桜の手に渡されたのは懐中時計だった。清士がタイムトラベルする日の夜に持っていたものである。
「え、こんな、時計なんか貰っていいの?」
咲桜は困惑したが、清士は大きく頷いた。
「勿論さ。昔の人間が昔の時代の物を未来の人に渡したって問題はないだろう。貰ってくれよ」
咲桜の手の中に収まる銀色の懐中時計は、カチカチとふたりの別れの時間を急かすように時を進める。咲桜は時計を持ったまま首にかけていたネックレスを外して差し出した。一粒の小さなダイヤモンドが光る。
「お返しというか代わりというか……とにかくこれ、持ってって。こんなネックレスなら未来のものだって分からないでしょ。切れても燃えても、海に沈んでも土に埋まってもなんでもいいから、私の気持ちとして」
「咲桜さん、道を間違っているなんてことはないだろうな」
「大丈夫。あとちょっとで着くから」
半信半疑の清士だったが、しばらく咲桜の後をついていくと、そこには見慣れたはず駅の景色があった。
「これは……」
思わず息を呑む清士を見た咲桜は嬉しくなった。
「東京駅。これは10年くらい前に復原された建物だけど……どう?懐かしいような感じがするでしょ?」
ふたりの目の前には、温かみのある白いライトに照らされた駅舎の姿があった。
「ああ、とても綺麗だ。この景色を最後に見られるとは……僕は幸福者だ。心から礼を言うよ」
最後に笑顔を見せてくれた清士を見て、咲桜はほっとした。
「よかった、私も成田さんが喜んでくれて嬉しい」
清士と咲桜は足並みを揃えて駅に入り、清士は切符を買って改札口へと向かう。咲桜も電車に乗るつもりはなかったが改札に向かった。
「咲桜さん、君も付いて来て良かったのかい」
改札を通ったものの心配そうに振り返る清士を見て、咲桜はすまし顔をした。
「私が見送りたくてついて行ってるだけだから」
咲桜は清士に追いつくように小走りで改札を進む。ホームまでの道のりは咲桜にとっては悲しい別れの道に、清士にとっては覚悟を決め最期を待つ道となり、決して楽なものではなかった。今からでも後ろに一歩下がれば、悲しい思いをせず、命を失わずに済む道である。しかし、ふたりは並んでも互いに何も言わず、ただ前を向いて歩き続けるのであった。ホームに着くと同時に咲桜は深く息をついた。これが本当に最後の別れである。清士は何も言わず立ち止まっている。
「成田さん」
咲桜が呼ぶと、清士は薄く笑みを浮かべた表情で向き合う。
「今まで……ありがとう。本当に大変だったと思うし、私もたくさん迷惑かけちゃったけど、成田さんのおかげでここまで来れた」
清士はしばらく黙って咲桜を見ていたが、ゆっくりと2回瞬きをし、ポケットからきらりと光るものを出した。
「咲桜さん、これは僕と出会ってくれた印だ。受け取ってくれないか」
咲桜の手に渡されたのは懐中時計だった。清士がタイムトラベルする日の夜に持っていたものである。
「え、こんな、時計なんか貰っていいの?」
咲桜は困惑したが、清士は大きく頷いた。
「勿論さ。昔の人間が昔の時代の物を未来の人に渡したって問題はないだろう。貰ってくれよ」
咲桜の手の中に収まる銀色の懐中時計は、カチカチとふたりの別れの時間を急かすように時を進める。咲桜は時計を持ったまま首にかけていたネックレスを外して差し出した。一粒の小さなダイヤモンドが光る。
「お返しというか代わりというか……とにかくこれ、持ってって。こんなネックレスなら未来のものだって分からないでしょ。切れても燃えても、海に沈んでも土に埋まってもなんでもいいから、私の気持ちとして」