ショウワな僕とレイワな私
「ただいま」

自動的に明かりの付く玄関だけが明るくなった家。もう一緒に家に帰ってくれる人も、「おかえりなさい」と出迎えてくれる人もいない。そういえば、ここで倒れてしまって介抱してもらったこともあったっけな。咲桜は悲しみのあまり何もできず、部屋に入った。白い電気をつけると、そこには何も変わり映えのない部屋がある。唯一、清士が使っていない、彼の面影がない私の部屋。白いふかふかのベッドに物理の本や宇宙の本がずらりと並ぶ机。

「あれ?」

机の上に、見覚えのない小さな手帳が置いてあった。表紙には「昭和十八年 懐中日記」とある。咲桜はそれを手に取りパラパラと(めく)り、息を()んだ。

机の上に置かれていた手帳には、日記が書かれていた。

『僕の世界に嫌気が差してしまって、どこか別の世界に行ってしまえば楽になるだろうと考えた。そうすると、この世界に来てしまったようだ』

『彼女に特別の想いを持ってしまった。彼女を守りたいと思った。しかし、どうしたものか、僕は彼女にこの気持(きもち)()わぬ(まま)消えてしまって良いのか』

『この切ない気持を何処(どこ)にやれば良いのだろうか。内心、僕はずっとこの世界に留まっていたいと思う』

『帰るべき日は来る。さようなら』

手帳の上に、大粒の涙が零れた。

その年の1月1日から今日までの日記が、1行だったり数行だったりで1日も欠かさず、丁寧な力強い字で書かれていた。最後の日記の欄には咲桜の名前が書いてあった。

『咲桜さん、僕は令和の時代に来て咲桜さんと出会って過ごした日々は本当に夢のようで、楽しかった。この手帖(てちょう)を置いて()くから、どうか笑っていて、お元気で』

「成田さん……」

咲桜は清士がこの日記を自分のために残したのだと分かって、手帳を胸に抱きしめた。今頃彼はどうしているだろうかと思いを馳せながらベッドで日記を始めのページから読み始めた。
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