ショウワな僕とレイワな私

「忘れてしまいたいほど」

2023年12月、咲桜のもとに一本の電話が入った。

「もしもし」

電話をかけてきたのは中央警察署の寺田であった。大翔の件で呼び出しがあるという。咲桜は支度をして警察署に向かった。

「あら、今日は成田さんいらっしゃらないんですね」

寺田の何気ない一言が咲桜の胸に刺さるが、咲桜は笑って応えた。

「ちょっと忙しくて。私だけで大丈夫でしたか」

「まあ大丈夫でしょう。裁判についてのご連絡ですので、後で成田さんにもお伝えしておいてください」

咲桜は寺田に手渡された紙を見る。

「公判が……ちょうど来週ですかね、この日程で決まりました。特に検察からもこちらからの資料だけで特別に取り調べ等はないということなので、もし傍聴されるようでしたらこちらまで。判決が(くだ)れば、またこちらか検察から連絡が来ると思いますので」

「そうですか、ありがとうございました」

咲桜は深々とお辞儀をした。裁判には行かなかったが、寺田から聞いた通り、1週間半ほど経った頃に家のポストに封書が入っていて、その中に裁判の結果が書いてあった。

「刑法第二百二十二条及び銃砲刀剣類所持等取締法第二十二条の二第一項の違反並びにストーカー行為等の規制等に関する法律第十八条に則り被告人を金七十五万円の罰金刑に処す」

書面を見た咲桜の心には何の感情も湧かなかった。ただ、罰が下ったというだけで、嬉しさも不安も何も浮かばなかった。ただあの日からいつも手にしている懐中時計を今日も握りしめているだけである。

年の瀬は流れるように過ぎていき、気がつけば年を越していた。咲桜は変わりなく生活していたが、ある冬晴れの日にまた家のポストに封書が届いていた。

「あれ、もう裁判はとっくに終わったのに……」

送り主は見慣れない名前で住所は新宿の若宮町からと書いてあるが、宛先は間違いなく咲桜の名前であった。咲桜は家に戻ると早速封書を開けてみた。すると、一枚の手紙と縦長の封筒が入っていた。

『大戸咲桜様 もし宛先を誤っておりましたら処分していただいて構いません。我が家の特殊な事情で、同封した手紙をこの日この場所に届けることになっておりましたのでお届けしました。もし貴女が本当にこの手紙の主を知っているのであれば、ぜひ一度ご連絡下さい。 成田清貴(きよたか)

咲桜はハッとして一緒に入っていた手紙を出した。古びた茶色い封筒の真ん中には、見慣れた字で『大戸咲桜様』と書かれていた。
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