ショウワな僕とレイワな私
『咲桜さんへ お元気ですか。僕は出征が決まったので、どうしても咲桜さんに最後の別れを告げたいと思いこの手紙を書いています。昭和に戻ってからというもの、貴女が困り事なく楽しく過ごしているかを気に掛けるばかりです。僕はこれからどうなってしまうか分からぬ身ですが、咲桜さんは令和で僕といた時のように明るく朗らかでいて下さいね。それからこのようなことは言いたくないけれども、もし僕が死んだら、いつか僕の眠るところに行ってやって下さい。最後まで戦争はだめだ、無意味だと思っていて、僕はこの戦争の全ての結末を知っていて、その後の日本人の作った世界を見た身ですが、やはり争い事は存在しないのが一番ですね。僕等(ぼくら)学生や、僕等より若い子供達、女性、幼き子供、老人、罪なき市民の命が、未来が削られていくことが僕にとっては一番辛いことです。それでも僕は()かなければならない身だと知らされてしまったので、そうと決まれば心して征くことにします。咲桜さん、貴女と過ごした時間が僕の人生の中では最も輝いていました。ありがとう。さようなら。 清士』

封筒には、手紙と一緒に東京駅で咲桜が渡したネックレスも入っていた。咲桜は震える手で手紙を掴み、ひっそりと涙を流した。悲しみもあったが、歴史を知っていながら理論に従って清士を元の時代に返したはずの自分が憎らしかった。実際に清士が戦争から生き延びたかどうかは分からないが、いずれにせよもう今は生きていないはずだし、少なくとも咲桜の中の清士は20歳で止まっている。咲桜はこの手紙が届いたことにも驚いていたが、何より送り主に返事をしようと思い家の近くのコンビニまで行ってレターセットを買った。

封書に書かれていた住所と宛名を頼りに白い封筒に宛先を書き添えて、便箋には自分が封書を受け取ったこと、実際に清士と会ったことがあり、清士の宛てた人物であることとお礼を書いてポストに投函した。数日後、今度は薄緑色の縦長の封筒が届いた。送り先はやはり新宿の若宮町からで、その内容は2月の初めに家に来てくれないかという内容であった。咲桜は自分が行っていいのか迷ったが、招待されているので断るわけにもいかず、ちょっとした菓子折りを持って送り主の家を訪ねることにした。
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