ショウワな僕とレイワな私
「証拠と言っていいかどうか分からないんですけれど……これが清士さんが最後にうちに置いて行った日記で、これが別れる前に私のネックレスと交換した懐中時計です。それからこれが先日送っていただいたお手紙になります」
咲桜は机の上にひとつずつ物品を出した。清士に渡してからの80年間封筒の中で眠っていたネックレスは咲桜の首元で光っている。清貴は日記と手紙を並べて筆跡を見比べ、懐中時計も手に取った。
「筆跡も同じだし、時計も錆びていない……まさか本当だったとは」
懐中時計のケースはクロームメッキでできていたので80年も経てばかなりの部分が錆びるはずだが、咲桜が持っていた期間は3ヶ月ほどだったので錆びは多くなかった。
「あの、どうして今のタイミングでこのお手紙を下さったんですか」
清貴は清士の日記を閉じて机の上に置いた。
「それがね、今年の1月にこの手紙を届けてくれと遺書に書いてあったそうで、私は父からこの手紙を譲り受けて保管していたのですが、ちょうどその日になったので送ってみようということになったんですよ」
咲桜は唇を噛んだ。あれほど令和の話を昭和でするなと言ったはずだが結局話しているじゃないかと思い、もどかしい気持ちになった。しかし、清士が令和のことを黙っていればこんな縁は生まれなかったのである。
「お父様、というのは……」
清貴が清士の息子なのかと思った咲桜であったが、その予想は外れた。
「私は弟のほうの子供で、清士さんは私の伯父にあたります」
咲桜はそれまで清士に弟がいたということを知らなかったので少し驚いたが、次の疑問が浮かび上がった。
「では、清士さんは……」
清貴はこれを言って良いのかと逡巡したが、穏やかに話し始めた。
「戦地で病気をして、終戦を待たず……ですね」
咲桜は「そうだったんですね」と言うほかなかった。咲桜の中の清士は20歳で止まっていたが、清士自身も20歳と数年で止まっているのである。咲桜はこれは聞くべきではなかったかと思ったが時すでに遅し、なんとも暗い雰囲気が居間に流れた。しばらく沈黙が続いたが、それを破るように玄関の方から音がして2人の男性が居間に入ってきた。
「父さん」「おじいちゃん」
「お、来たか。まあ座りなさい」
突然知らない人が増えたので、咲桜はさらに緊張した。
「大戸さん、これが私の息子の清浩と孫の清紀です。この2人も伯父のことを知っています。こちらは大戸咲桜さん」
清浩と清紀は咲桜に軽く挨拶をした。清浩は商社勤めで、清紀は大学生らしい。2人とも人の良さそうな雰囲気が出ている。
「大戸さん……なんだかこんなことを言うのは変かもしれないけれど、本当にいらっしゃったんですね」
「まさか本当に先祖にタイムトラベルした人がいたなんて。僕はもう清士さんのことは話でしか聞いたことがなかったけど、びっくりですよ」
2人は口々に感想を言っていた。清浩からすると伯祖父であり清紀からすると曾祖伯父となる清士はもはや伝説的な話となっていた節があった。
咲桜は机の上にひとつずつ物品を出した。清士に渡してからの80年間封筒の中で眠っていたネックレスは咲桜の首元で光っている。清貴は日記と手紙を並べて筆跡を見比べ、懐中時計も手に取った。
「筆跡も同じだし、時計も錆びていない……まさか本当だったとは」
懐中時計のケースはクロームメッキでできていたので80年も経てばかなりの部分が錆びるはずだが、咲桜が持っていた期間は3ヶ月ほどだったので錆びは多くなかった。
「あの、どうして今のタイミングでこのお手紙を下さったんですか」
清貴は清士の日記を閉じて机の上に置いた。
「それがね、今年の1月にこの手紙を届けてくれと遺書に書いてあったそうで、私は父からこの手紙を譲り受けて保管していたのですが、ちょうどその日になったので送ってみようということになったんですよ」
咲桜は唇を噛んだ。あれほど令和の話を昭和でするなと言ったはずだが結局話しているじゃないかと思い、もどかしい気持ちになった。しかし、清士が令和のことを黙っていればこんな縁は生まれなかったのである。
「お父様、というのは……」
清貴が清士の息子なのかと思った咲桜であったが、その予想は外れた。
「私は弟のほうの子供で、清士さんは私の伯父にあたります」
咲桜はそれまで清士に弟がいたということを知らなかったので少し驚いたが、次の疑問が浮かび上がった。
「では、清士さんは……」
清貴はこれを言って良いのかと逡巡したが、穏やかに話し始めた。
「戦地で病気をして、終戦を待たず……ですね」
咲桜は「そうだったんですね」と言うほかなかった。咲桜の中の清士は20歳で止まっていたが、清士自身も20歳と数年で止まっているのである。咲桜はこれは聞くべきではなかったかと思ったが時すでに遅し、なんとも暗い雰囲気が居間に流れた。しばらく沈黙が続いたが、それを破るように玄関の方から音がして2人の男性が居間に入ってきた。
「父さん」「おじいちゃん」
「お、来たか。まあ座りなさい」
突然知らない人が増えたので、咲桜はさらに緊張した。
「大戸さん、これが私の息子の清浩と孫の清紀です。この2人も伯父のことを知っています。こちらは大戸咲桜さん」
清浩と清紀は咲桜に軽く挨拶をした。清浩は商社勤めで、清紀は大学生らしい。2人とも人の良さそうな雰囲気が出ている。
「大戸さん……なんだかこんなことを言うのは変かもしれないけれど、本当にいらっしゃったんですね」
「まさか本当に先祖にタイムトラベルした人がいたなんて。僕はもう清士さんのことは話でしか聞いたことがなかったけど、びっくりですよ」
2人は口々に感想を言っていた。清浩からすると伯祖父であり清紀からすると曾祖伯父となる清士はもはや伝説的な話となっていた節があった。