ショウワな僕とレイワな私
咲桜にとっては大学2年の春休みがもうすぐ終わろうかという頃、まだ寒さが残る東京の街にほんのりとした暖かさが訪れ、すっきりと晴れたある春の日。咲桜は成田家の3人と菩提寺を訪れていた。蕾を膨らませる早咲きの桜の木のあるお寺の入り口を横目に、入り組んだ石の道を通った先で井戸水を汲む。

「今日は晴れてよかったですね」

「そうですね、程よく暖かくて、よかったよかった」

清浩(きよひろ)が水を汲んだバケツを持ち上げながら話す。清貴(きよたか)を先頭に、時々すれ違う人と会釈をしながら歩いてゆく。

「さあ、ここです」

咲桜は息を呑んだ。清士から頼まれていたのもあったし、清貴から頼まれてここまで来てしまったが、何ともいえない厳かな雰囲気と、やはり来てよかったのだろうかという気持ちが混ざり合うような感じがした。咲桜は何もせずにその場に立っているわけにもいかないと思い、清紀(きよのり)と一緒に掃き掃除をすることにした。

「大戸さんって、今大学生なんですよね。僕は1年なんですけど、大戸さんは……」

「はい、私は今大学2年です」

咲桜はちりとりで枯れ葉を集めながら話す。

「ちなみにどこの大学なんですか?都内ですよね……?」

「いや、私は本当に無名の大学なので……」

清紀はきっと名門大学に通っているのだろうと思いながら、咲桜は苦笑いした。

「実は、この間もお話ししたんですけど、私、タイムトラベルの研究をするために、物理学とか量子力学とかを中心に勉強していて……それで私の尊敬する教授がいる今の大学を目指したんです。名もない大学なのでちょっとコンプレックスみたいなところはありますけどね」

咲桜はちりとりに集めた枯れ葉を捨てに近くのゴミ捨て場へ歩き出した。清紀もその後をついていく。

「大戸さんはすごいと思います。学びたい先生がいてその人に師事するって、大戸さんの勉強してることや研究してることに誇りを持ててるってことじゃないですか。これからも頑張ってください!僕、大戸さんのこと応援します」

思いがけない言葉に咲桜は驚いたと同時に、どこかで聞いたことのある話だなと思った。それは、あの秋の日に清士から聞いた言葉であった。

「ありがとうございます。清紀さんも、清士さんと一緒で心が温かい、優しい人なんですね。私が清士さんに会った日の夜もこんな話をしていて、彼はエリートだったから私の通ってる大学の話なんてしたら鼻で笑われるかもなんて思ってたんですけど、全然そんなことはなくて、むしろ、自分の学びたいことを学べているんだから、目一杯勉強を頑張ってって応援してくれたんです」

「そうだったんですか、清士さんってきっと、とても良い人だったんですね」

ふたりは清貴と清浩のもとに戻った。
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