Ring
ブンブンと犬が尻尾を振っている様子が凛の頭に浮かぶ。人懐っこい笑顔を見せる彼は、歌い手バロンこと音橋翔(おとはししょう)だ。

翔とは、凛が歌い手バロンを知って初めてライブに行って一週間もしないうちに出会った。場所はこのカフェだ。

同じように音楽を聴きながら最後尾で待っていると、急に翔の方から「この前、ライブに来てくれた子だよね?」と話しかけられたのである。歌い手がリスナーに接触するなど、バレたら炎上してしまうのだが、街中でいつも翔の方から何故か話しかけてくるのである。

イオンモールで、スーパーで、コンビニで、様々なところで翔とエンカウントをしていくうちに、翔が自分の本名を教え、同い年なのだからと敬語も外すよう言われたのだ。

「本当に俺たち、よく会うよね〜。何万人も人がいる街でこんなに会えるなんて、もはや奇跡じゃん!」

愉快そうに翔は笑うも、リスナーという立場である凛は引き攣った笑顔を浮かべることしかできない。最初は偶然会えて驚きと喜びがあったが、ここまで回数が多ければ、誰にいつバレてしまうのか緊張してしまう。
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