【電子書籍化】虐げられたうさぎ令嬢は、獣人の国で寵愛される。
◇王宮への呼び出し
セシールの一日は朝早くから始まる。
まだ紺色のままの空を見上げて私は離れから外に出た。本邸の者は誰も起きていないだろうという時間、まだ鳥たちの鳴き声すら聞こえないが、少しひんやりした空気が寝ぼけた頭を目覚めさせた。
「ん〜いい空気」
背伸びをしながら冷たい井戸水を汲んで顔を洗う。その残った水で自分の服を洗濯をすると、干し竿へと一枚ずつ干した。
新しく井戸水を汲んで引き上げると少し重たい桶を持ち建物の中に入る。建物内の厨房へ水を溜めて昨日もらったパンをお皿に乗せてたくさんの野菜で野菜のスープを作りはじめる。
「ふふふん〜」
鼻歌混じりで歌いながらもグツグツ煮込むスープの中に塩を入れると混ぜて完成する。スープを器に入れて少し硬くなったパンをスープで染みさせ食べる。質素だけど、食べれないよりもマシだ。
私が料理ができるのはお祖母様であるアンジェルのおかげだ。私が本邸へ追い出されると予想していたのだろう、お祖母様は私に日常生活で必要なことを教えてくれた。洗濯や料理、掃除の他にもご令嬢なら刺繍はできて当たり前だからと刺繍も教わった。この国のことや隣国について、お祖母様の出身であるお国・カスティラン帝国についても習い私が唯一できる治癒魔法も丁寧に教えてくれた。
お祖母様は、治癒魔法の使い手でそのことがありこの国に嫁いできたらしい……
「今日は何をしようかしら……」
私はお祖母様から受け継いだ裁縫箱を取り出し、まだ途中かけの刺繍を再開する。布を動かしながら針で丁寧に縫っていると、離れの玄関から“トントン”とノックをする音が聞こえてきた。
誰だろう、来客なんて珍しい……そう思いながら玄関のドアを開けるとそこにはお父様がいた。