魔女のはつこい
首をかすかに動かして部屋を見渡したかと思うと顔を真っ青にしながら静かに身を屈めていく。やがてあぐらをかいたかと思うと両こぶしを膝横で床に押し付けて頭を下げた。
「…申し訳ない。」
たっぷりと沈黙が流れた。
「…え?」
疑問を口にするだけでもそれなりの時間が経ったと思う。口から思わずこぼれたと言った方が正しいのだが、それでもセドニーの荒かった息が整うまで誰も声を発しなかったのだ。
「よくよく考えれば夜分に女性の部屋に無断で押し入り、あまつ詰め寄って押さえつけようとしてしまった…。気が立っていたとはいえ本当に申し訳ない。」
「え?」
あまりの態度の変わりようにセドニーはまた違った意味で混乱してしまった。そんな彼女を知ってか知らずか、男はゆっくりと顔を上げてまたあの真っすぐな瞳でセドニーを射抜く。
「最初は、魔獣を無理やりに手に入れようとする魔女の仕業かと思ったが…この部屋には魔女は一人しかいないし、干渉の媒体となった水晶玉もそこまでの魔具ではなかったから…あなた自身の魔力だと確信して気持ちが昂った。」
まだ少し戸惑いが残る表情は、それでも真剣にセドニーに向き合っていた。
「貴女が俺の魔女だと…そう思って止まらなくなった。」
「俺の魔女?」
他にも分からないところはあったが、一番気になった所を口にした。一体どういう意味があるのだろう、そう頭の中で思案していると言葉が続いた。
「俺の名はアズロ。俺と対になる魔女を探してここまで来た。貴女の名前を聞かせていただきたい。」
対になる魔女、その意味が気になったが名乗られては黙るわけにはいかないとセドニーは口を開く。
「セドニー…と申します。」
「セドニー。ぜひ貴女の師に会わせていただきたい。俺はセドニーが対の魔女だと確信している。」
「え!?」
「師はどちらに?」
「え…多分いまは…師匠の屋敷だと。すみません、私も詳しくは。あと夜だし…。」
「明朝では。」
「魔法屋にいます。師匠も私もそこで働いているので。」
セドニーの言葉に深く頷くとアズロは深呼吸して姿勢をより正しくしてセドニーを見つめた。ただならぬ空気にセドニーの背筋もつられて伸びる。今度は何が来るのだと構えて全身に力が入った。
「明朝、そこを尋ねることを許していただきたい。見習いである魔女は師に許可を仰がないといけないと、そう聞いている。」
誰から?そんなセドニーの疑問を挟む間もなくアズロはまた言葉を続けた。
「俺は黒ヒョウの魔獣。この場で本来の姿を見せるが驚かずにいてほしい。」
「本来の姿?」
セドニーがアズロの言葉を嚙みしめる間もなく彼の姿は穏やかな光を放ち、あっという間に彼の言う本来の姿へと変わった。
それは彼の言葉通り、黒いヒョウだった。
その大きさは人間であった彼と比べて高さは低くなったものの、厚みを増した分より大きくなった同じかそれ以上に存在を感じる。ヒョウなんて物語や資料の中でしか見たことがなく、こんなに大きく感じられるなんて知らなかった。
それにセドニーの部屋はただでさえ狭い空間だ。閉じられていた金色の双眼が開きセドニーを見つめた瞬間、セドニーの限界は再び突破した。目の前に猛獣がいれば当然の事だ。
「っき…!」
「まてまてまて!!」
悲鳴の先駆けである息を吸い込んだ瞬間を察しアズロは慌ててセドニーの口を押さえにかかる。それこそが恐怖。
突然自分に襲い掛かってくる大きな黒ヒョウにセドニーは強い恐怖と混乱と衝撃で気を失いそうになった。
「ああっ!これ!これならどうだ!!?」
アズロの前足がセドニーの口に触れる瞬間、また違った光を放ちセドニーは思わず目を固く閉じた。来ると構えていた強い衝撃はなく、その代わりに柔らかな感触が頬にあたる。
「え?」
驚いて目を開けると、いつの間にかベッドへ背中から沈んでいたセドニーの上に黒猫が乗っかかっていたのだ。
「…申し訳ない。」
たっぷりと沈黙が流れた。
「…え?」
疑問を口にするだけでもそれなりの時間が経ったと思う。口から思わずこぼれたと言った方が正しいのだが、それでもセドニーの荒かった息が整うまで誰も声を発しなかったのだ。
「よくよく考えれば夜分に女性の部屋に無断で押し入り、あまつ詰め寄って押さえつけようとしてしまった…。気が立っていたとはいえ本当に申し訳ない。」
「え?」
あまりの態度の変わりようにセドニーはまた違った意味で混乱してしまった。そんな彼女を知ってか知らずか、男はゆっくりと顔を上げてまたあの真っすぐな瞳でセドニーを射抜く。
「最初は、魔獣を無理やりに手に入れようとする魔女の仕業かと思ったが…この部屋には魔女は一人しかいないし、干渉の媒体となった水晶玉もそこまでの魔具ではなかったから…あなた自身の魔力だと確信して気持ちが昂った。」
まだ少し戸惑いが残る表情は、それでも真剣にセドニーに向き合っていた。
「貴女が俺の魔女だと…そう思って止まらなくなった。」
「俺の魔女?」
他にも分からないところはあったが、一番気になった所を口にした。一体どういう意味があるのだろう、そう頭の中で思案していると言葉が続いた。
「俺の名はアズロ。俺と対になる魔女を探してここまで来た。貴女の名前を聞かせていただきたい。」
対になる魔女、その意味が気になったが名乗られては黙るわけにはいかないとセドニーは口を開く。
「セドニー…と申します。」
「セドニー。ぜひ貴女の師に会わせていただきたい。俺はセドニーが対の魔女だと確信している。」
「え!?」
「師はどちらに?」
「え…多分いまは…師匠の屋敷だと。すみません、私も詳しくは。あと夜だし…。」
「明朝では。」
「魔法屋にいます。師匠も私もそこで働いているので。」
セドニーの言葉に深く頷くとアズロは深呼吸して姿勢をより正しくしてセドニーを見つめた。ただならぬ空気にセドニーの背筋もつられて伸びる。今度は何が来るのだと構えて全身に力が入った。
「明朝、そこを尋ねることを許していただきたい。見習いである魔女は師に許可を仰がないといけないと、そう聞いている。」
誰から?そんなセドニーの疑問を挟む間もなくアズロはまた言葉を続けた。
「俺は黒ヒョウの魔獣。この場で本来の姿を見せるが驚かずにいてほしい。」
「本来の姿?」
セドニーがアズロの言葉を嚙みしめる間もなく彼の姿は穏やかな光を放ち、あっという間に彼の言う本来の姿へと変わった。
それは彼の言葉通り、黒いヒョウだった。
その大きさは人間であった彼と比べて高さは低くなったものの、厚みを増した分より大きくなった同じかそれ以上に存在を感じる。ヒョウなんて物語や資料の中でしか見たことがなく、こんなに大きく感じられるなんて知らなかった。
それにセドニーの部屋はただでさえ狭い空間だ。閉じられていた金色の双眼が開きセドニーを見つめた瞬間、セドニーの限界は再び突破した。目の前に猛獣がいれば当然の事だ。
「っき…!」
「まてまてまて!!」
悲鳴の先駆けである息を吸い込んだ瞬間を察しアズロは慌ててセドニーの口を押さえにかかる。それこそが恐怖。
突然自分に襲い掛かってくる大きな黒ヒョウにセドニーは強い恐怖と混乱と衝撃で気を失いそうになった。
「ああっ!これ!これならどうだ!!?」
アズロの前足がセドニーの口に触れる瞬間、また違った光を放ちセドニーは思わず目を固く閉じた。来ると構えていた強い衝撃はなく、その代わりに柔らかな感触が頬にあたる。
「え?」
驚いて目を開けると、いつの間にかベッドへ背中から沈んでいたセドニーの上に黒猫が乗っかかっていたのだ。