魔女のはつこい
「ごめん…俺は傷を治すことは出来ない。」
労わるように優しく痕を撫でてやると、せめて包帯を取りに行くとアズロはセドニーから身体を離してベッドから降りた。
「星の形の時計が置いてる…引出しの中にあるの。」
動いたはいいものの包袋の場所が分からず動きを止めていたアズロにセドニーが声をかける。しかし彼女の視線は今もずっと自分の手首の痕にあった。まだ彼女の意識は昨日に囚われたままだ。
「…すぐ戻る。」
急ぎ足で取りに行くアズロの足音を聞きながらセドニーは少しの体勢も変えずに彼を待っていた。いや、待っているという感覚さえもなかったかもしれない。
目は開いているのに自分が何を見ているのかという意識もなかった。次に思考が働いたのはアズロに包帯を巻かれている途中だったのだ。
「え…アズロ、いつの間に…。」
「横になったままでいい。あまり上手くないが…我慢してくれ。」
思わず身体を起こそうとしたがやんわりとアズロに止められてしまった。ゆっくりと頭をベッドに預ければ懸命に包帯を巻いてくれるアズロの顔がよく見える。少し伏せた金色の目は暗闇の中でもやはり綺麗だった。
右腕に巻かれている包袋の感覚はまだ拾えていない。
「…怖かったよな。」
さっきは近くにアズロの顔があって離れたかったのに、今はその反対だなんて信じられるだろうか。そんな事を考えながらぼんやりとアズロの顔を見つめた。
「…危ない目に合わせてすまなかった。」
彼の金色の目は視線を落としているけど、長いまつげはよく見える。褐色の肌に金色の目なんて、とても印象的な組み合わせだ。
「…怪我まで負わせてしまった。」
そんなに歪ませないで、せっかく綺麗な顔をしているのに勿体ない。そんなに思いつめないで、アズロは前を向いて笑っていた方がずっとかっこいい。見つめられるこっちが大変になるくらい、アズロには堂々としていて欲しい。
いつからそんな気持ちをアズロに抱くようになったのだろう。セドニーは自分の心なのに不思議な気持ちになった。
「…私ね、最終試験を受けさせてもらえる事になったの。…もうすぐ見習いを卒業できるよ。何か月も待たせてごめんね?」
怖かった、一体自分の身に何が起こっているのか状況判断さえも出来なかった。ただされるがままにセドニーは命を奪われていたかもしれないのだ。
旨そうだとあの男は確かにそう言った。
アズロがいなければ間違いなく命を落としていた。遅かれ早かれそうだったに違いない。狙われるという言葉の意味をようやく本当の意味で理解して震えが止まらなかった。
利用されるだけじゃない、純粋に食い物とされることもあるのだと実感した。はぐれ魔獣だとアズロが言っていたあの男は最初からセドニーに狙いを定めて近付いてきたのだ。
魔獣の全てが好意的ではないのだとセドニーは初めて知って怖かった。魔女は魔獣の餌になりえるのだということも初めて知った。
「防御とか攻撃とか…やったことないけど覚えなきゃね。アズロが来てくれるまで…自分で持ちこたえられるようにしないと。」
「セドニー…。」
「いつまでも守られてばかりじゃいけないよね、だって見習いを卒業するんだもん。」
アズロは全部自分が悪いと思っている、でもセドニーはそんな事少しも思っていなかった。恐怖を感じたのは事実だ、危ない目にあった時守ると言っていたアズロが傍にいなかったのも事実だ。それでもアズロを責める気にはならなかった。
アズロがいなければ、何故自分がこんな目に合うのかも分からないまま殺されていたかもいれないのだ。
「私も…頑張るから。だから…。」
気持ちが昂って目が熱くなる。涙がこぼれそうになるのを堪える為にセドニーは歯を食いしばった。
あの時感じた死への恐怖、そして生への執着。
それは情けないくらいに自分の欲深さをむき出しにさせて無防備にさらされた。
「必ず助けに来て…。」
労わるように優しく痕を撫でてやると、せめて包帯を取りに行くとアズロはセドニーから身体を離してベッドから降りた。
「星の形の時計が置いてる…引出しの中にあるの。」
動いたはいいものの包袋の場所が分からず動きを止めていたアズロにセドニーが声をかける。しかし彼女の視線は今もずっと自分の手首の痕にあった。まだ彼女の意識は昨日に囚われたままだ。
「…すぐ戻る。」
急ぎ足で取りに行くアズロの足音を聞きながらセドニーは少しの体勢も変えずに彼を待っていた。いや、待っているという感覚さえもなかったかもしれない。
目は開いているのに自分が何を見ているのかという意識もなかった。次に思考が働いたのはアズロに包帯を巻かれている途中だったのだ。
「え…アズロ、いつの間に…。」
「横になったままでいい。あまり上手くないが…我慢してくれ。」
思わず身体を起こそうとしたがやんわりとアズロに止められてしまった。ゆっくりと頭をベッドに預ければ懸命に包帯を巻いてくれるアズロの顔がよく見える。少し伏せた金色の目は暗闇の中でもやはり綺麗だった。
右腕に巻かれている包袋の感覚はまだ拾えていない。
「…怖かったよな。」
さっきは近くにアズロの顔があって離れたかったのに、今はその反対だなんて信じられるだろうか。そんな事を考えながらぼんやりとアズロの顔を見つめた。
「…危ない目に合わせてすまなかった。」
彼の金色の目は視線を落としているけど、長いまつげはよく見える。褐色の肌に金色の目なんて、とても印象的な組み合わせだ。
「…怪我まで負わせてしまった。」
そんなに歪ませないで、せっかく綺麗な顔をしているのに勿体ない。そんなに思いつめないで、アズロは前を向いて笑っていた方がずっとかっこいい。見つめられるこっちが大変になるくらい、アズロには堂々としていて欲しい。
いつからそんな気持ちをアズロに抱くようになったのだろう。セドニーは自分の心なのに不思議な気持ちになった。
「…私ね、最終試験を受けさせてもらえる事になったの。…もうすぐ見習いを卒業できるよ。何か月も待たせてごめんね?」
怖かった、一体自分の身に何が起こっているのか状況判断さえも出来なかった。ただされるがままにセドニーは命を奪われていたかもしれないのだ。
旨そうだとあの男は確かにそう言った。
アズロがいなければ間違いなく命を落としていた。遅かれ早かれそうだったに違いない。狙われるという言葉の意味をようやく本当の意味で理解して震えが止まらなかった。
利用されるだけじゃない、純粋に食い物とされることもあるのだと実感した。はぐれ魔獣だとアズロが言っていたあの男は最初からセドニーに狙いを定めて近付いてきたのだ。
魔獣の全てが好意的ではないのだとセドニーは初めて知って怖かった。魔女は魔獣の餌になりえるのだということも初めて知った。
「防御とか攻撃とか…やったことないけど覚えなきゃね。アズロが来てくれるまで…自分で持ちこたえられるようにしないと。」
「セドニー…。」
「いつまでも守られてばかりじゃいけないよね、だって見習いを卒業するんだもん。」
アズロは全部自分が悪いと思っている、でもセドニーはそんな事少しも思っていなかった。恐怖を感じたのは事実だ、危ない目にあった時守ると言っていたアズロが傍にいなかったのも事実だ。それでもアズロを責める気にはならなかった。
アズロがいなければ、何故自分がこんな目に合うのかも分からないまま殺されていたかもいれないのだ。
「私も…頑張るから。だから…。」
気持ちが昂って目が熱くなる。涙がこぼれそうになるのを堪える為にセドニーは歯を食いしばった。
あの時感じた死への恐怖、そして生への執着。
それは情けないくらいに自分の欲深さをむき出しにさせて無防備にさらされた。
「必ず助けに来て…。」