魔女のはつこい
咄嗟に謝ったもののその先のことは全く考えていなかった。ただ完全に否が自分にあることだけ理解していたので正面から目を合わせる勇気が出ずに俯いてしまう。

「謝るってことは…自分がよくないことをしたと認めてるってことか。」

自分の否を口にされてセドニーの肩が跳ねた。
ヤバい、これはヤバい。
全く意味をなさない緊急事態宣言が頭の中で反響していく。

滝のような冷や汗がどんどん体温を奪っていき、視線も定まらなかった。そして何度目かのヤバイと共に両手は自分の服を握りしめるのだ。

「ふうん。」

反対に突然現れた彼は堂々たる態度で部屋の中に足を踏み入れ室内をじっくりと観察し始めた。そしてセドニーの近くまで進んで足を止める。

俯いたままの視界の中に彼の靴が見えて言葉にならない悲鳴を盛大に心の中で叫び続けた。どうしようとヤバイを織り交ぜた高速呪文がひたすら全身を駆け巡っていくようだ。今のセドニーはその2語だけで作られていると言っても過言ではない。

「これは俺のだ。返してもらっていいか。」
「えっ!?」

不意にかけられた言葉に顔を上げると、彼は水晶の横に置いてあった耳飾りを手にしてかざしている。彼の言葉通り、彼の耳には対になる耳飾りが付けられていた。

「あ、はい!もちろん!」
「まあ当然だな。」
「…そうですね。」

どうぞどうぞと全力で促せば言われるまでもないと簡単にあしらわれて微妙な気持ちになる。この貴族然たる振る舞いに多少苛立ちを覚えるが、セドニーにとって分が悪いので何とか押しとどまった。

ただ立っているだけなのに目の前の人物からは言いようの出来ない、威圧感のようなものを当てられているようで負け越しになってしまうのだ。そうでなくても状況が悪かった。

しかし目の前の彼が耳飾りを対で付けている姿はセドニーに安堵も与えたのだ。持ち主のところに戻って良かったと、心からそう思って息を吐く。

「それで…魔女。何故俺を見ていた?」

その表情は不機嫌さが混じっていて、勝手に自分を覗かれたことへの嫌悪を感じられた。そうか、良かれと思った占いも使い方によっては人を不快にさせるのだとセドニーは学んで申し訳ない気持ちになった。

「…正確には魔女見習いです。その耳飾りの持ち主を探そうと思いまして占いを行いました。」
「何故探そうと?」
「この辺りで見ない特殊な細工でしたので…旅の方が落とされたのではないのかと。この地を離れる前にお返しできたらいいと思いましたので占いを。」

自然と言葉遣いが丁寧になるのは明らかに目の前の人物が位の高い人だと察したからだ。やはり水晶玉で見た通り、彼の身に着けている衣装は質のいい生地だと分かる。その話し方も高圧的に感じるのはそうせざるを得ない身分だという事だろう。

少し前のセドニーだとただ慌てふためくだけだったが、今日一日彼と同じように高い身分の人間と何度も接していたので少しは耐性が出来ていた。

高位の相手にはどんな状況でも挙動不審になったり、言葉を詰まらせることをしてはいけないと学んだばかりだ。

「随分と親切なんだな。」
「…お褒めにあずかり光栄です。」

こんな返しで良かったのかと首を傾げながら自分の中にある精一杯の丁寧な言葉で返していく。怒られませんように、殺されませんように。そう願いつつ、同時に師匠であるラリマにも懺悔を送り続けた。

ごめんなさい師匠!
気をつけなさいと言われていたのにさっそく変なことになってごめんなさい!

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