魔女のはつこい
きっと彼は祖国では位の高い人物だろう。貴族でないにしても多くの人間を統括するような、そんな権利を持っているのだと何となく察する。物言いが高圧的なのはきっとそこから来ていると思ったのだ。
そんな人物にすごく見られている。ものすごく部屋の中を見られている。当然の様に一人暮らしの未婚女性の部屋を遠慮知らずで舐めるように見ている。それは何というか、不躾で無礼なのではないかと少しずつ疑問に思い始めていた。
「あの…お返ししたので、お帰りいただけないでしょうか。」
自分のしたことをほんの少しだけ棚に上げて退室を促してみた。用が済んだのなら帰ってほしい。その思いで見上げたら不思議な事にさっきまでの威圧を感じず、少し雰囲気が柔らかくなっているように思えた。
そして彼自身も何か考えているような素振りを見せていたのだ。
「ああ、確かに受け取った。俺のものだ。」
「…良かったです。それでは…。」
「魔女、貴女に尋ねたい。」
「はい?」
「何故俺を見ていた?」
はい?ともう一度聞き返して首を傾げた。それはさっきも説明したじゃないかと若干面倒になるが、自分の返事をもう忘れたのかともう一度繰り返すことにしたのだ。
「耳飾りの持ち主を見つけようとしたからです。」
「それは聞いた。」
「はい?」
揶揄っているのかと思わず眉を寄せて顔が引きつった。聞いていたんじゃないかとつっこみたくなる衝動を抑え、一体どうしてほしいのか分からずにもう一度考える。それでも分からないセドニーはつい首を傾げてしまった。
「何故、俺に干渉したかだ。」
「干渉…などしておりませんが。」
「何かしらの形で俺の意識を引こうとしただろう。」
「んん?」
本当に分からなくなって唸るような声が漏れた。どういう事だろうか。特にこちらを意識してほしくて何か誘惑を仕掛けた訳ではない。自意識過剰かとため息が出そうになったが、目の前の人物は真剣な表情でセドニーの答えを待っていた。
異性の意識を引くなどとそんな類の話ではないようだ。では彼が言う意識を引くというのはどういうことなのだろう。
「あの時、俺は確かに魔力の干渉を感じた。肩を掴むような、後ろから引っ張られるような感覚だ。」
「あっ。」
そこまで言われてセドニーはようやく思い当たることが出来た。確かに占いの中、どうしても持ち主の顔を確認したくて懸命に姿を追っていた。あと少しがなかなか届かなくて、どうにかして振り向かせた思いで手を伸ばし肩を掴もうとしていたかもしれない。
実際には自分の身体はそこにないのだから、あくまで例えるならの話になる。でも確かに気持ちは手を伸ばして振り向かそうとしていた。おそらくその事だろうと感じたのだ。
「確かに…後ろ姿しか見えなかったのでこちらを振り向いてほしくて強く念じはしましたけど…。」
「その魔力は確かに届いていた。」
そんな事があるのか、セドニーはただただ感心して受け止めた。あまりに淡泊、他人事のような反応に金色の目が細くなる。セドニーの肩が反射的に跳ねた。目を細めるだけで他人を委縮させる人間がいることを初めて知った瞬間だった。
「この部屋の中に貴女以外の気配はない。一人で占いをしたという事だ。」
「はい。一人でしました。」
「占いに使ったのはこの水晶か?」
「はい。」
「…あまり上質の物には見えないが。」
「練習用だと聞いています。」
「練習用?あなたの腕で?」
「…そうです。占い自体もまだ二度目です。」
「二度目!?」
「っ声!!」
予想以上の大きな声に慌てて静かにするようセドニーは自分の口元に人差し指をあて訴えた。本人も驚いたようですぐに両手で口元を押さえる。
なんだ、意外に可愛らしい反応をするものだとセドニーから少し力が抜けた。
そんな人物にすごく見られている。ものすごく部屋の中を見られている。当然の様に一人暮らしの未婚女性の部屋を遠慮知らずで舐めるように見ている。それは何というか、不躾で無礼なのではないかと少しずつ疑問に思い始めていた。
「あの…お返ししたので、お帰りいただけないでしょうか。」
自分のしたことをほんの少しだけ棚に上げて退室を促してみた。用が済んだのなら帰ってほしい。その思いで見上げたら不思議な事にさっきまでの威圧を感じず、少し雰囲気が柔らかくなっているように思えた。
そして彼自身も何か考えているような素振りを見せていたのだ。
「ああ、確かに受け取った。俺のものだ。」
「…良かったです。それでは…。」
「魔女、貴女に尋ねたい。」
「はい?」
「何故俺を見ていた?」
はい?ともう一度聞き返して首を傾げた。それはさっきも説明したじゃないかと若干面倒になるが、自分の返事をもう忘れたのかともう一度繰り返すことにしたのだ。
「耳飾りの持ち主を見つけようとしたからです。」
「それは聞いた。」
「はい?」
揶揄っているのかと思わず眉を寄せて顔が引きつった。聞いていたんじゃないかとつっこみたくなる衝動を抑え、一体どうしてほしいのか分からずにもう一度考える。それでも分からないセドニーはつい首を傾げてしまった。
「何故、俺に干渉したかだ。」
「干渉…などしておりませんが。」
「何かしらの形で俺の意識を引こうとしただろう。」
「んん?」
本当に分からなくなって唸るような声が漏れた。どういう事だろうか。特にこちらを意識してほしくて何か誘惑を仕掛けた訳ではない。自意識過剰かとため息が出そうになったが、目の前の人物は真剣な表情でセドニーの答えを待っていた。
異性の意識を引くなどとそんな類の話ではないようだ。では彼が言う意識を引くというのはどういうことなのだろう。
「あの時、俺は確かに魔力の干渉を感じた。肩を掴むような、後ろから引っ張られるような感覚だ。」
「あっ。」
そこまで言われてセドニーはようやく思い当たることが出来た。確かに占いの中、どうしても持ち主の顔を確認したくて懸命に姿を追っていた。あと少しがなかなか届かなくて、どうにかして振り向かせた思いで手を伸ばし肩を掴もうとしていたかもしれない。
実際には自分の身体はそこにないのだから、あくまで例えるならの話になる。でも確かに気持ちは手を伸ばして振り向かそうとしていた。おそらくその事だろうと感じたのだ。
「確かに…後ろ姿しか見えなかったのでこちらを振り向いてほしくて強く念じはしましたけど…。」
「その魔力は確かに届いていた。」
そんな事があるのか、セドニーはただただ感心して受け止めた。あまりに淡泊、他人事のような反応に金色の目が細くなる。セドニーの肩が反射的に跳ねた。目を細めるだけで他人を委縮させる人間がいることを初めて知った瞬間だった。
「この部屋の中に貴女以外の気配はない。一人で占いをしたという事だ。」
「はい。一人でしました。」
「占いに使ったのはこの水晶か?」
「はい。」
「…あまり上質の物には見えないが。」
「練習用だと聞いています。」
「練習用?あなたの腕で?」
「…そうです。占い自体もまだ二度目です。」
「二度目!?」
「っ声!!」
予想以上の大きな声に慌てて静かにするようセドニーは自分の口元に人差し指をあて訴えた。本人も驚いたようですぐに両手で口元を押さえる。
なんだ、意外に可愛らしい反応をするものだとセドニーから少し力が抜けた。