乾いた心に…
次の日、男は娘に言った。

「もう逃げられないな?ここに来たのが運の尽きだ。お前が気に入った。どんな事情だったか知らないが、もう俺のものだ。帰さないぞ。」

「わかりました…あなたが私を要らないと思うまで、ここにいましょう…」

男は娘の片足に頑丈で長い縄を付け、片方の結び目は近くの木に括り付けて逃げられないようにした。

娘は家事をしたことが無かったらしく不慣れな様子だったが、なんとか懸命にこなし、夜は男に身体を許した。

おかしなことに、娘は帰りたいとも言わず、やったわずかな食事すらもまともに食べなかった。

「お前はなぜほとんど飯を食べない?今日も少し多く稼いできてやっただろう?」

「私はお昼に家の外に出させて頂いて、ほんの少しとお水を頂ければそれで充分です。」

娘はそう言うだけだった。


「お願いがあります…。あなたに人のものを盗んで欲しくないのです。私のために盗みを続けているのでしょう…?」

娘は懸命に訴えた。

「あなたが罪人になってしまうことがとても悲しい…。お願いです…たとえ私のためであっても、盗みはやめてください…!」

男は本当に娘が気に入っていた。
懸命な娘を見て、なんだか心が癒やされている気がしていたからだった。
必死に訴える娘に少々圧倒されながら、男は頷いた。

「…お前がそう言うのなら…。」

それを聞いて娘は嬉しそうに笑った。

「その代わり、私は一生懸命尽くしますから…!」


娘は帰りたいとも言わず、せっせと男に尽くし、男も約束の通り、盗みはせず、まっとうな金で娘と暮らした。

「お前は微かに良い香りがするな…同じ風呂に入っているのになぜだ?まあいい、気立てもいいし抱き心地もいいし、お前は導かれてここに来たんだな…」

娘は男に抱かれ、涙を流して嬉しそうに笑った。


ささやかで幸せな日々が続いたある日、娘は男にそっと抱き付いて悲しげに言った。

「私は…あなたと離れたくありません……」

「当たり前だ、お前は俺といればいい!」

男は嬉しかった。
娘がずっと自分のもとにいてくれると心から信じたかった。その娘が、離れたくないと言ってくれたのだから。

「あなた…私を置いてくれてありがとうございます…!」

「?変な奴だな、居ろと言ったのは俺なのに…。縄ももういらないな…外してやろう。…よし、飯が出来たようだな、食うか。」

食事を始めた男は、自分の前で幸せそうな顔で水を飲む娘の頬を、そっと撫でた。

「そういえばお前が来てから酒の量が減ったな…家に帰ってくるのも楽しみになった。お前のおかげだ…。」
< 2 / 5 >

この作品をシェア

pagetop