身ごもり一夜、最後のキス~エリート外科医の切なくも激しい執愛~
自分が将来お医者さんと結婚することは知っていた。
父を尊敬しているから、父が選ぶお医者さんも素敵な人にちがいないと思い、病院の跡取りのための結婚に不安を感じたことはなかった。
今も相手に不満はない。
選ばれた英知さんは素敵な人だ。
でも私は、アキくんと出会っていた。
アキくんがお医者さんになったと聞き、いずれ彼と結婚できるんだと勝手な夢を見ていた。
それは婚約前夜の、今日の今日まで。
朝、アキくんから「婚約前に最後にふたりで会おう」とメールが来るまで。
私の中でこの片想いが成就する可能性がゼロになっていなかった。
アキくんに婚約を反対されたことがない。
その意味がわかっていたのに、告白せずに夢を見ているうちは私の想像は自由だった。
足取り軽く鼻歌を歌う今の私は確信している。
今夜は大失恋する日になるだろう。
告白しないまま、彼の祝福を受けるのだ。
鼻歌はやがて掠れ、音はこめかみから喉へ落ちてくる。
低いつぶやきになってたまに裏返る。
< 2 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop