身ごもり一夜、最後のキス~エリート外科医の切なくも激しい執愛~
「症例を積ませるために去年までアメリカに行かせてたはずなのに。それが急に戻って来て、どうしてだと思う? 星来ちゃん、日比谷先生とも昔から仲良しなんでしょう? なにか聞いてないの?」
真緒ちゃんの矢継ぎ早な質問に後退りをした。
聞いていないどころか、アキくんが急にアメリカから帰った理由を疑問に思ったこともなかった。
「もしかして日比谷先生さ……」
真緒ちゃんの息が直接耳に当たる。
「水澤病院、乗っ取る気かな?」
彼女は大好きなサスペンスを語るときと同じ低い声で、そう囁いた。
現実的じゃなさすぎて「まさか」と返すと、満足そうに「だよね」と笑う。
私と真緒ちゃんがナイショ話をしている間に、父と英知先生、アキくんたちの難しい話は終わったらしい。
それぞれ別の方向に進み、英知先生だけは事務室を振り返って、
「星来ちゃん、お弁当ありがとう」
と私に手を振った。
すると背を向けたままアキくんも立ち止まり、立派な革靴がコツンと音を立てた。
「はい。がんばってください」
私は英知先生に小さく手を振り返す。
中郷さんに「そろそろ急いでください」と急かされた英知先生は、「わかったわかった」と今度こそ行ってしまった。
事務室の皆も止めていた仕事の手を再開する。
アキくんも歩きだし、やがて見えなくなった。
真緒ちゃんの矢継ぎ早な質問に後退りをした。
聞いていないどころか、アキくんが急にアメリカから帰った理由を疑問に思ったこともなかった。
「もしかして日比谷先生さ……」
真緒ちゃんの息が直接耳に当たる。
「水澤病院、乗っ取る気かな?」
彼女は大好きなサスペンスを語るときと同じ低い声で、そう囁いた。
現実的じゃなさすぎて「まさか」と返すと、満足そうに「だよね」と笑う。
私と真緒ちゃんがナイショ話をしている間に、父と英知先生、アキくんたちの難しい話は終わったらしい。
それぞれ別の方向に進み、英知先生だけは事務室を振り返って、
「星来ちゃん、お弁当ありがとう」
と私に手を振った。
すると背を向けたままアキくんも立ち止まり、立派な革靴がコツンと音を立てた。
「はい。がんばってください」
私は英知先生に小さく手を振り返す。
中郷さんに「そろそろ急いでください」と急かされた英知先生は、「わかったわかった」と今度こそ行ってしまった。
事務室の皆も止めていた仕事の手を再開する。
アキくんも歩きだし、やがて見えなくなった。