兄の子を妊娠しました。でも私以外、まだ知りません 〜禁断の林檎を残せるほど、私は大人じゃないから〜
「どうして?」

私は尋ねた。
すでに刀馬くんはこの時
大学生になっていた。

「大学で来て行く夏服を
選んで欲しくて」

と彼が言った。
私は

「いいよ」

と言いながらも
その無神経さに
ほんの少し寂しくなった。

私は新品の服を着て
大学に行くなんてできないのに
そんな私の目の前で
私が見えない場所での
新生活の準備をするなんて、と。

「さあ、羽奏」

刀馬くんから
差し伸べられた手を
私はもう
当たり前の様に
取ることができる。

かつては
触れるだけでも
心臓がはち切れそうだったのに。
今は心臓が暴れない代わりに
安心感に包まれる。

そんな変化が
くすぐったい。

かつて嬉しかったことが
こうして変わってしまう様に
嫌なことも
辛いことも
同じ様に変わるのだろうか。

変わって欲しくないことばかりが
どんどん変わり
変わってほしいものが
決して変わらないとしたら
なんて残酷なことだろうと
空を見ながら
つい考えてしまった。

「空に何かある?」

刀馬くんは
どれどれと
私の視線の先を
一緒に見てくれた。
私は

「内緒」

とだけ答えて
彼のエスコートに身を任せた。
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