絶体絶命の転生ライフ、カタブツ騎士団長の溺愛にたじたじです ~追放された子猫は愛妻にジョブチェンジ!?~
 ふと、ルーナの声を聞いたような気がした。それだけではない、すぐ近くにルーナがいるような空気を感じた。
「おいユーグ、今ルーナの鳴き声が聞こえなかったか?」
「なに寝ぼけたことを言ってるんですか。こんな場所にルーナがいるわけがないでしょう。それよりも、ワーグナー筆頭大臣の直轄地はもう目と鼻の先です。今は征伐作戦にのみ集中してください」
 振り返って、俺のすぐ後ろで馬を駆るユーグに問うと、厳しい目でピシャリと返される。
 ユーグの言葉は正論で、ぐうの音も出ない。なにより部隊は予想より順調に進み、いまだ太陽が沈みきっていないが、既にワーグナー筆頭大臣の直轄地まで残り五キロを切っていた。
 ……たしかに、今は征伐に集中せねばいかんな。
「わかっている。もちろん征伐作戦には手抜かりない」
 こう答え、口を噤んだ俺だったが、五感は相変わらずルーナの存在を訴えていた。
 違和感を拭えないままさらに二キロほど進み、まもなく森を抜けようかという地点で、俺は馬脚を緩めて声を張った。
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