愛しき人
バイトを始めて5日目

その日は朝から
うだる様な夏の暑い日、
彼女はやって来た。

「奈央(ナオ)ちゃん、
こいつ稜(リョウ)
新人だからよろしくね。」

と、竜一さんに背中を押され

『はっ・・・始めまして稜です。
あっ・・・村上』

・・・なんとも間抜けな挨拶

 
カウンター越しの彼女、
いつもは別の角度から
見ていたけど
真正面から見ると
なぜか緊張した。


「奈央です!よろしくぅ!!!
ていうか、かわいくな~い?!
J事務所に入れるんじゃない!
え~いくつ?若いよね??
水弾く?弾くよねぇ!!」

すごいテンションで
まくしたてるように話す
彼女に僕は固まってしまった。


もともと女の人が苦手だったけど、
あまりにもその容姿から
かけ離れたしゃべりに驚いていた。

もう一度その声を発した
彼女の顔を見てみる・・・


『フッ』

彼女は散歩前の
興奮した犬みたいな顔で
僕の言葉を待っていた。


僕は思わず笑ってしまった。


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