一途な部長は鈍感部下を溺愛中
顔を真っ赤にして震えることしか出来ない私に、相変わらず少し戸惑ったまま、私たちをチラ見しながら女将さんのお手伝いをする仲居さん。
やがて部長が、困り顔で女将さんを呼び止めた。
「……あんまり揶揄わないでやってもらえるか、可哀想に。震えてるぞ」
「やだ、怖がらせちゃった? もうお邪魔したりしないから、ゆっくりお過ごしくださいね」
お料理の説明を少しだけ、と、それまでの雰囲気が嘘のように、丁寧に料理について紹介してくれた女将さんは、最後に「何かございましたらお気軽にお申し付けください」と綺麗な笑顔で締め、仲居さんと共に下がった。
後に残されたのは気の抜けた空気と、技巧の凝らされた美しい料理の数々。
私と部長は暫く見つめ合い──「……先、食べるか」そう苦笑した部長に、私は頷いた。
食べている間、ほとんど無言だった。
でも、気まずいとか、居心地が悪いとか、そういうのはなく、繊細な日本料理の数々に舌鼓を打ちながら私は思考の泥に沈んでいた。
部長も食事中にあまり喋るタイプでは無いのだろう。綺麗な箸使いで、左手を添えながら食べ進め、私が三分の二程を食べ終わるくらいに完食した。