一途な部長は鈍感部下を溺愛中
む、無理に決まってる。恋愛初心者にはハードルが高すぎる。
眉を下げ、やや目を伏せながら首を振り、満足気にこちらを眺める部長をちらりと見上げた。
「わ、私……」
「うん?」
「……部長が、初めてなんです。その、こういう、お付き合いとか……」
ぼそぼそと呟くと、こちらを揶揄うばかりだった視線に驚きが混じる。居た堪れなくて、すいと視線を逸らした。
「……だから、その、お手柔らかに……オネガイシマス」
声は終わりに近づくほど細くなった。やがて最後はカタコトになり、しん、とその場が静まり返る。
「いや……」
もしかして言わなくていい事まで暴露してしまったのでは? 今更ハッとしていると、呻くような声が耳に届いた。
視線を上げると、部長が片手で顔を覆っている。
そして指と指の間から、苦しげに寄せられた眉と、炉に透かしたかのように熱の篭った瞳が覗いた。
「手加減しろというのなら、あんまり可愛いことを言ってくれるな」
今のどこに可愛い要素があったと言うのか。
ポカンと口を開けて呆けたが、部長はそれ以上何も言ってくれなかった。