一途な部長は鈍感部下を溺愛中
そして唖然とする私を余所に、指の背に自然な仕草で口付けられる。
唇を触れさせたままで、部長は意地悪く目を細めた。
遠目から見ればどこぞの王子様かと突っ込みたくなるような一連の動作に暫くフリーズしていたけれど、こちらに向けられる好奇心の視線が幾つか通り過ぎた頃に、やっと我に返る。
「わ、分かりましたから……!」
パッと手を引けば、案外すんなりと抜け出せた。
なんて恥ずかしいことを、平然とした顔でするんだこの人は……。
部長はクスクスと笑いながらも、離れた私の手をまた掬い上げる。
当然のように指を絡められ、ぴくりと肩が跳ねたが我慢した。そして、また歩き始めると「そういえば」と部長に話しかけられた。
「この前君に……給湯室で迫ってた男は、どこで接点があったんだ?」
「せ、迫られた、という程では……」
小さな声で抗議してみたものの、冷たい視線でいなされ、それ以上は食いさがれなくなる。
一度口を閉じてから、西村さんの言葉を思い出しながら部長に説明しようと視線を上げた。
「確か、私がまだ派遣だった時、受付で働いていたのを知っていてくれたらしく……」