一途な部長は鈍感部下を溺愛中
「……えっ」
部長? と横を見上げて、びっくりした。
部長は大きな難題が立ちはだかったかのように、眉間に皺を寄せ、口元に手を当てて何かを考え込んでいた。
険しく鋭い視線はこちらを向かず、地面に落ちていたけれど、私は違う意味でドキドキしてしまった。
「ひ、聖さん……?」
恐る恐る。そっと腕に触れて優しく揺らすと、ハッと長い睫毛が震える。
「ああ、すまん」
「いえ……あの、怒ってます……?」
怒られるような発言をしたつもりは無かった。
でも、二人の時には見せたことの無いような険しい顔だったから、思わずそう尋ねてしまう。
すると、部長は困ったようにくしゃりと目尻に皺を作った。
「いや違う。ごめんな。どうしたら、君を引き留められるものかと悩んでいた」
「え……」
「でも、中々いい言葉が見つからなくてなあ。……どうしたら、君は帰らないでいてくれるんだ?」
とろり、蜂蜜を混ぜ込んだような瞳が、私を絡めとる。
瑞稀、と甘い声で名を紡がれ、ぞくりと背筋が痺れた。……あまりよくない視線だ。今の私にとっては。
「……でも、帰らないというわけにもいかないですから」