一途な部長は鈍感部下を溺愛中


誘惑するような視線を振り切るように目を逸らし、ボソボソと手向かう。


可愛くないことを言ってる自覚はあった。


「ずっとここに居て欲しいって言っても、君は帰るんだろうな」


部長が私を抱き寄せ、旋毛に羽のようなキスを落とす。


外なのに、と怒る気力は無かった。


どことなく寂しげな声を出す彼にどう応えればいいのか分からなくて、私は引き寄せられるまま、彼に半身を預けていた。


それから暫く、人の波が動く間も、彼はまだ何かを考え込んでいるようだった。

さすがに初めほど険しい顔ではなかったけど。


そして、前に並ぶ参拝者がどんどん捌けていき、いざ拝殿へと続く階段を登ろうと一歩踏み出した時。


「一緒に暮らそうか」


幻聴かと、思った。


周りの雑音に溶け込んでしまいそうなほど、自然な声だったから。


それでもその言葉はやけに透き通って、どんな音よりも速く私の耳に届いた。


隣を見上げると、麗しい笑みを湛える面差しが光を放つようにこちらを見ていた。


それってどういう意味ですか? 私の家を引き払ってってこと? それとも、私の帰ります発言をまた無かったことにしようとしてますか?


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