一途な部長は鈍感部下を溺愛中
聞きたいことは沢山あって、でも私は色々な衝撃の渦に飲まれ、一段目を踏み外したせいでそれどころでは無かった。
「おっと」
後頭部からすっ転びそうになったところを、軽やかにキャッチされる。
少しだけ背を屈めて私を支えた部長は、そのまま私を石段の上に立たせた。
そしてにこりと微笑まれ、賽銭箱の前まで手を繋いで連れてこられる。
パッと手を離された時にはもう、部長の視線は私から離れていた。
もう、こんな状況で、どんな気持ちでお参りすればいいのか。
狼狽えながらも五円玉を投げ入れ、鈴を鳴らそうと鈴緒に手を伸ばした時。
「二人の良い家が見つかるように、どうかお力添えください……って、俺はお願いしようかな」
隣から、柄にもなく恥ずかしそうに俯いて、部長がそう言ったから。
願い事って口にすると叶わないんじゃなかったですっけ? とか。
なんでこんなタイミングで言うんですか。とか。
色々込み上げてきて、でも言えなくて、私は諦めて前を向いた。
気持ち大きく鈴を揺らし、頭を下げ、手を合わせる。
──どうか、ずっとこの人の隣に居れますように。