一途な部長は鈍感部下を溺愛中
取り付く島もない声に、今度こそ黒木さんの顔が真っ青になる。その瞳がどす黒い焔を燃やしているように見えて、ゾッとする。
唇を噛み締め、わなわなと震える黒木さんを一瞥すると、東雲部長は私の手を掴んだまま無言でその場から去った。
そして、デスクルームに入る前に手は離され、ミーティングテーブルまで戻ると、部長はじろりと私を見る。その恨めしそうな視線に、たらりと冷や汗が米神を伝った。
「えっ……と」
「君、あっさり俺を見捨てようとしただろ」
「み、見捨て……!?い、いえ、そんなつもりは」
逃げようとはしたけれど。
「あの、お邪魔かなと思って……」
「邪魔なもんか。もう変な気遣いはするなよ」
すっかり機嫌を損ねてしまったのか、つんとした顔でそっぽを向く東雲部長に、はあ、とどちらともつかない返事をする。
変な気遣いとは言われても……あの場面じゃ、誰でも私と同じ行動を取るに決まってる。
「あの……じゃあ、また午後からよろしくお願いします」
何だかちょっと気まずい空気から逃げるように、バッグを肩にかけ、ぎこちなく微笑む。すると、驚いたようにアーモンド型の両目が見開かれた。