一途な部長は鈍感部下を溺愛中
それもそうだろう。突然目の前で男が立ち止まって、じっと自分を見つめているのだから。
きっとこの反応だと、俺のこともそこら辺の一社員くらいにしか思ってないんだろうなあ。
そう思うと可笑しくて、思わず笑い声が零れてしまいそうになるのを飲み込みながら、彼女に向けて微かに唇を緩めた。
「……おはよう」
彼女にだけ届けばいいと、極々小さな声で告げたのに、耳聰い他の受付嬢達にも届いてしまったようで、「おっ、おはようございます!」と裏返った声が幾つも突き刺さる。
折角、清らかな声に癒されかけていた心があっという間に萎えてしまい、彼女の反応を見ることも無く、今度こそエレベーターへと足を向けたのだった。
その日はすぐに外出の予定があり、出社後すぐに外出し、戻ってきた時には午後の始業まであと十分というところだった。
まだ受付には人が戻っておらず、静かな空間は息がしやすい。
しかし、受付のスペース内を忙しなく動き回る一人の影が目に留まり、見るとそれは彼女だった。
どうやら郵便物の仕分けをしているらしい。昼休みが終わる少し前には持ち場に戻る、その姿勢も好ましかった。
今日は無いようだが、日によっては午後一の来客が、この時間帯から訪ねてくることもある。
そんな時に対応してるのは大体彼女で、きっとそれもあって早めに戻るようにしているんだろうなと分かるから、尚のこと好感度は高まった。
……人が戻ってなくて静かでいいな、と思った後にしては矛盾するかもしれないが。
頑張れ、と密かに応援しながら前を通り過ぎようとすると、不意に顔を上げた彼女と目が合う。本日二回目だ。
「あっ」
そして、明らかに俺に対して向けられた挨拶以外の声に、俺は思わず動揺してしまった。
「あの!」
「えっ」