一途な部長は鈍感部下を溺愛中
すぐに声をかけようとして、ふとその視線が俺ではなくとある一点を見つめていることに気づく。
その視線を追い、俺は、ああ、と頷いた。
「これが気になるか?」
コーヒーカップの隣に置いていた山吹色の箱を手に取る。
すると彼女はハッとして、照れたように俺と目を合わせた。
「すみません。部長もそれ食べるんだなあと思って。……私も、好きなんです」
「……だろうな」
ふ、と笑い、中から銀紙に包まれた中身を取り出す。
「頑張っている君にもご褒美だ」
そう握った拳を突き出せば、驚いた顔をしたあとで、嬉しそうに両手が差し出された。
──あの日と、まるで逆だな。
きっと彼女にとってはなんてことの無い日々の一コマ。思い出にも残っていないだろう。だから口には出さなかった。
けれど、俺の中では淡く、しかし色褪せない鮮明な思い出として、心に刻まれている。
あの後、銀紙を剥がし、口に放り込んだカラメル色の甘さまで、余すことなく。
この甘さが、君にとっても思い出の味となればいいのに。
そう呪(まじな)いをこめながら、彼女の手にひとつ、甘い、甘い、恋の味を落としてやった。