一途な部長は鈍感部下を溺愛中
私はどうしても恥ずかしさが勝ってしまって……聖さんが10与えてくれた頃に、ようやく1返せる。多分、そんな感じだと思う。
聖さんからの愛も優しさも、沢山伝わっていて、それと同じだけの感情を上手く返せていないことに心が痛むことも確かにあった。
だけど、聖さんは不満そうな顔ひとつ見せないから、安心しきっていたのだけど……もしかして、実は不満に思っていたり、するんだろうか。
「……聖さんの、真似をしよう」
出来る範囲で。あの、夜のお誘いを自分から、とかはハードルが高すぎるから、ちょっとしたハグ、とか……そのくらいを。
いままで貰った分を、少しずつ行動で返していこう。今日は、その初めの一歩を踏み出す日に。
「……よし!」
そうと決まれば。
ベッドから飛び降り、ダイニングへと向かう。なんとなく足音を殺しながら静かにドアを開けると、こちらに背を向けながらフライパンを振るう聖さんの姿が見えた。
中には入らず、ドアの隙間からじっと見つめ続けていると、ふと、その背中が震える。
「どうした。そんなところで突っ立って」
そして投げられた笑み混じりの声にビクッと肩が跳ねた。こっそり盗み見しているつもりだったけれど、気付かれていたらしい。
「……」
ゆっくりとドアを開けて、聖さんに近寄る。
「喉でも渇いたのか? 寝室まで持っていってやろうか」
聖さんは手を止めないまま、キッチンまでやってきた私に不思議そうに声を掛けた。
だけど私は緊張して、自分の心臓の音が、耳の奥で煩くて。