一途な部長は鈍感部下を溺愛中
上手く言葉が返せなくておろおろしているうちに、火を止めた聖さんがこちらを振り向こうとする。その前に、私はその広い背中に抱き着いた。
「ん!?」
頭上から、ひっくり返ったような声が落っこちてくる。
聖さんは、私が料理をしているといつもこうやって後ろから抱きしめてくる。邪魔にならないような、丁度よいタイミングを狙って。
それで、その後は……私のうなじや耳を唇で辿ったり、甘い言葉を囁いてきたり……。
(いや、それは無理!)
「み、瑞稀?」
まだ僅かに狼狽えを残しながらも、もうすっかり落ち着いた様子の聖さんを、最後にぎゅっと力を込めて抱きしめる。
「……もう少し寝てきます!」
そして、振り返った彼にこの真っ赤な顔を見られてしまう前に、私はそう宣言して寝室までダッシュで戻った。
それから、心臓が破れそうになりながらも、頑張って隙を見て、ボディータッチを試みた。
隣り合って座った時に、肩に頭を預けてみたり、わけもなくぴっとり近づいてみたり、白髪探しをしてみたり(これは後から思惑に気付かれてちょっと嫌がられた。白髪は無かった)。
聖さんは相変わらず不思議がりながらも、終始嬉しそうにはしてくれていて、日が暮れるころには「今日の君は随分と甘えんぼうだな」という言葉を引き出すまでに至った。
照れた顔ではにかみながらそう言われた時の嬉しさといったら!
ちゃんと私の目的通り正しく伝わっていたんだな。それなら大成功だ。とすっかり安心して迎えた夜。
「お風呂お先でした」
「ああ。俺もすぐに済ませてくるから、先に寝室で待っていてくれ」
湯上りで濡れた髪を拭きながらリビングへと向かうと、パソコンに向かっていた聖さんが顔を上げた。