一途な部長は鈍感部下を溺愛中
「どこに行くつもりだ」
「え?あの、お昼に……場所はまだ決まってませんが」
「一人でか」
「? はい……東雲部長は、先約があるんですよね」
また午後はこのテーブルまで戻ってくれば良いですか?と首を傾げると、部長が長い溜息をつきながら頭痛を覚えたように片手で頭を押さえる。
その呆れましたと言わんばかりの溜息にポカンとしていると、不機嫌そうな琥珀色が細められ、間抜けな顔の私を映した。
「俺は君を誘ったつもりだったんだが……」
「え!?」
「それとも遠回しに、俺の誘いを断ってるのか?」
拗ねたような表情で見下ろされ、言葉の意味を噛み砕いて飲み込むのに少し時間がかかった。
先約って……私のことか!
きっとあの女の人を追い払うための口実だろう。でもこうして、なんだかんだで優しい部長はそれを事実にしようと私を誘ってくれている。
本当は私なんかとご飯なんか、行きたくもないだろうに……。
「勿論俺の奢りだし、君より周辺の店に詳しい自信がある。……それとも、上司とご飯じゃ息が詰まるか?」
中々返事をしない私に焦れたのか、こちらを責めるようだった視線の強さが緩み、形の良い眉が下がる。