一途な部長は鈍感部下を溺愛中
どこか不安そうな、雨の日に捨てられた仔犬を彷彿とさせるような表情で訊ねられ、私は反射的に首を横に振った。
すると、下がっていた眉がスン、と元に戻り、「決まりだな」と唇が悪戯っぽく歪む。
その表情の変わり身の速さにまた唖然とする私を置いて、「行くぞ」と東雲部長は長い足を踏み出した。
それから、会社を出るまでの間に五組くらいの女の子たちに声を掛けられたけど、その全てを部長はにべも無くバッサリ断り、私だけを連れてご飯屋に連れて行ってくれた。
よく考えたら、部長と二人きりでご飯だなんて初めてで、何を喋ったのか、何を食べたのか、どんな味だったのか、正直何も覚えていない。
緊張で頭が真っ白なまま昼食を終え、二人で支社に戻り、少ししたところで東雲部長が席を立った。
「悪い。一時間だけ打ち合わせに出てくるから、ここで待っててくれるか」
少し離れたところではここの人事部長や、本部長まで居て、なるほどお偉いさんだけの会議ですね。と思いながら素直に頷く。
一人でフラフラとフロア内を歩く勇気はまだ無いので、午前中に学んだ出来事を纏めたり、手元に紙の資料が無くてもできる仕事を消化しながら、部長の帰りを待った。