一途な部長は鈍感部下を溺愛中
中にいるのは女の子二人のようで、私の存在に気付くわけもなく、会話は続く。
「でもさ、思い切ってお昼誘ったんだけどバッサリ断られちゃってさー、にこりともしてくれなくて……」
「へえ、普段はよく笑う所見かけるのにね……じゃあ、あの噂本当なのかあ」
噂?
「噂?」
心の声が、もう一人の女の子と被る。
「二重人格って噂。人によってかなーり態度変わるらしいよ」
「ええっ!私、何もしてないのに……」
しゅんとした声の女の子に、大丈夫、と声を掛けたくなる。
部長のあの態度は、貴女にだけでは無いし、なんなら彼は二重人格なんじゃなくて──、
ふと、静かだった廊下がやや騒がしくなり、振り向くと会議が終わったらしい東雲部長が、他のお偉いさん方を連れて戻ってくるところだった。
まだ距離があるのにぱちっと目が合った気がして、慌てて頭を下げてその場から離れる。飲み物はもう諦めよう。
その場を離れる刹那、「いいよね、あの子。ほら、東雲部長と一緒に来てた……」「ああ!本社人事、唯一の女の子でしょ?」「そう。あの子さ……」と会話が聞こえてきて、胃の腑が落ち着かなくなる。
何が良いもんか。
女嫌いの上司に、こっちは毎日いつ見限られるかと、ヒヤヒヤしているのに。