一途な部長は鈍感部下を溺愛中



最初にアタックしに行ったのは、誰だったか。確か他部署の男性からも人気を集める、すごく美人な人だった気がする。


元々分かりやすい人だった。

部長の前では声色が変わるし、どうにかして部長との接点を作ろうとしていた。


だけど、そのアピールの数々が部長にあまり響いていないことも皆知っていて、だから他の女性も、彼女を警戒しつつ強くは止めなかった。


私に仕事を教える時は人の好い温和な先輩社員然とした彼女たちが、部長が絡んだ瞬間水面下で火花を散らすのを、モテるって凄いなあ……なんて呑気に思っていたある日のこと。


いい加減痺れを切らしたのか、焦れたのか。

定時間際、部長承認が必要な書類を持ち、部長の元へと駆け寄ったその人は、ついに行動に出た。


今思うと、その日はいつも以上に服装や化粧に気を遣っていた気がする。普段より少し濃いめのメイクに、整えたばかりのネイル。胸元を強調するようなブラウスに、ふわりと膝丈で揺れるスカート。ほんのりと甘く香る香水。


そんな彼女が、淡く色づいた指先を東雲部長の腕に絡ませ、「今夜、よければ二人で飲みませんか……?いいお店、見つけたんです。東雲さんにピッタリの」と艶やかな声で囁いたのを、その時偶然近くのラック付近で作業をしていた私は聞いてしまった。



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