一途な部長は鈍感部下を溺愛中
と、とにかくノックして、部長が居たらすぐお礼言って渡して……
「そんな所に突っ立ってどうした?」
「ひっ……!?」
もう幾度も繰り返した脳内シミュレーションを再びシミュレートしていると、今まさに脳内出演してもらっていた声が後ろから聞こえ、同時に肩を叩かれて私はその場で飛び跳ねるように驚いた。
危うく手荷物を落としそうになりながら振り向くと、予想通りそこには東雲部長が、こちらも驚いた顔で私を見下ろしていた。
「そ、そんなに驚かなくても……」
「す、すみません!」
慌てて頭を下げると、琥珀色が弛み、小さな笑いが薄桃色の唇から零される。
「しかし今日は早いな。体調はもう大丈夫なのか?」
「はい、あ、あの部長……」
フリーズしていた私の横を過ぎ、部長が扉を開けてくれる。
私は頭を下げて潜りながら、次いで中に入った部長の後ろをそろそろと着いていく。すると、部長が首を傾げながらこちらを振り向いた。
「ん?」
「あの、えっと、その、これ……!」
土曜日はありがとうございました。とか、つまらないものですがよければ。とか、色々と言いたいことはあって、それも何度も脳内で練習したはずなのに、やっぱり実際に部長を前にすると全て吹っ飛んでしまった。