一途な部長は鈍感部下を溺愛中
「ま、もしその男に傷つけられたら私を呼びなさい。やり返してやるわ」
そう、拳で空気を裂くように鋭い素振りを見せてくれるゆかりに笑いながら、ありがとう、とお礼を言うのだった。
──と、親友に心の内を吐露し、すっきりしたはいいものの。
「佐藤、悪い。ついでにこの書類も頼んでいいか?」
「しょ、うちいたしました」
だからといって何が解決するでもなく、私は挙動不審な自分の態度を頭の中で叱りつけながら、俯きがちに席に戻った。
あれから、まあ見事に部長の顔を見れなくなってしまった。
今も、報告書を渡しに行った先、絡んだ視線と一瞬触れた指先の感触に耐えられず、声を上擦らせ、不自然に視線を逸らしてしまった。
恋心に気付いた日から約一か月。
そんなことを続けてばかりいたから、今も部長席から突き刺さる視線が痛い。
恋心は日に日に募るばかりで、自分はこんなにも感情を隠すのが下手だったのかと絶望したくらいだ。
この気持ちに気付かれてはいけないと思えば思うほど、私の挙動は不自然になるばかりで、さすがの部長も私の態度を疑っているらしい。
せめて、仕事だけは完璧にやろうと頑張っているので見逃してほしいところだけど……。