一途な部長は鈍感部下を溺愛中
部長は私を一瞥した後で、にこりと笑顔を横山くんに向けた。
「ああ、たまには佐藤の手伝いでもしてから帰るかと思ってな」
その言葉に、横山くんは目を丸くし、私は驚きのあまり「えっ!?」と声に出していた。
「そんな、大丈夫ですよ! コップ捨ててお盆拭いて戻すだけですから」
「俺に手伝われると不都合でもあるのか?」
「えっ、それは、無いです……」
「なら、いいよな」
横山くんに向けられていた綺麗な笑顔が今度はこちらに向けられる。
不都合が有るか無いかで言えば、個人的感情は抜きにすれば無いとしか言えないので、あっさりと言い包められてしまった。
でも、本当に大した作業ではない、数分もかからず終わってしまうようなそれを何故手伝いたがるのか……、そう思いながら、部長と二人きりという状況はあまりにも胃が痛いし色々とドキドキしてしまうので、助けを求める視線を横山くんに送ってみる。
しかし横山くんは、そんな私の視線に苦く笑うと「……じゃ、俺らは先に戻ってますね」と背中を向けた。
呆然としていると、手の上から重さが消える。
見上げれば、東雲部長が片手でお盆を持っていた。