一途な部長は鈍感部下を溺愛中
「……ま、よっぽど俺の方が公私混同してるか」
自嘲するように苦笑した部長がふいに窓の外へと視線を移し、「さて」と立ち上がった。
「定時もすぎてしまったし、そろそろ戻るか。……俺が閉じ込めておいて言うことじゃないけどな」
部長が、私の荷物も持って立ち上がる。それに慌てて倣うと、非の打ち所の無い笑みで撃たれる。
「泣かせてしまったお詫びに、このくらいはさせてくれ。扉だけ開けてくれると嬉しいな」
「は、はい」
頷き、扉に駆け寄って開けると、ありがとな、と頭頂部に何かが触れた。
それは多分、位置からしてきっと部長の唇だった。だけどもう、それを確認する勇気もなくて。
その後、会社から出るまでの間、どう過ごしていたのかあまり記憶にない。
ただ、部長と別れる間際「明日からはもう避けてくれるなよ」と真剣な表情で詰め寄られ、その鬼気迫る表情に私は壊れた人形のように首を縦に振ったのだった。