黒歴史小説 冬の蝉

3-3


 由香が目を開けるとそこは薄暗くなった空があった。
「あれ……」
「起きたのか? 怪我はないか?」
「え? あ、うん……」
 ボーッとしていた頭を動かし始める。たしか北条達に襲われそうになったのだ。でも、それは守を助けようとして起こったことである。だが、当の本人である守はピンピンしている。おまけに自分が彼の膝に頭をのせていた。

「あ、ごめん……」
 ゆっくりと身を起こす。周りには誰一人いない小さな公園で、その公園の中のベンチに二人は肩を並べて座っていた。
由香にはどうしても腑におちないことがあった。あの状況でどうやって守は北条達から逃れたのであろう? まさか、三人を返り討ちにしたとか……。

「あの……守君。大丈夫なの?」
「なにがだ?」
「いや、だって北条先輩達が……」
「ああ、奴らならいないぞ。お前が気絶した後に先生に見つかってな。警察に連れていかれた」
「あ、そう……よかった」
 しばらく、沈黙が続く。なぜか、気まずい。どうも守は怪しい。なにかを隠している気
がするのだ。
 しばらく考えたが、私も彼も無事だったし、まあいいかといつものポジティブな考えに辿りつく。

「おい、そろそろ帰らないと夜になるぞ」
「あ、うん」
 二人は公園を出て、駅に向かった。
「私ね……本当のこと言うと、北条先輩のこと好きとか思ってなかったみたい……」
「え?」
 守は由香の突然の告白に驚いた。由香は驚く守を無視して話を続ける。

「その……北条先輩ってけっこう、女子の間じゃ人気があってね。私も一年の時からちょっと憧れていたけど、今日の行動を見てゲッソリしちゃった。どうやら、私、チョコをあげる人、間違えたみたい」
「そ、そうか……」
 由香の顔には小さなえくぼがあった。やはり、彼女には笑顔が似合っている。
 その由香の笑顔に見とれた守は思わず、顔を赤らめてしまった。
 守が必死に赤い顔を隠そうとしていると由香が手を叩いて何かを思いついた仕草をした。

「そうだ! 一ノ瀬君、今度の日曜日、あいてる?」
「え? ああ、あいているが……」
「よし。じゃあ、私とデートしようよ」
「な、なんだと?」
「だから、デート。どこに行こっか?」
「お、おい。俺は……」
 守の答えを聞く前に由香は勝手に話を進めている。もうこれでは由香の言いなりだ。

「やっぱ、一ノ瀬君らしくない所がいいよね。う~ん……遊園地とか。うむ、遊園地にしよう! ジェットコースターに乗ってお化け屋敷に入ってアイスを食べて、最後に観覧車に乗ろうね。夜景がキレイだよ~」
 由香は目をキラキラ輝やせて、悦に入っている。
「おい、品田?」
「う~む、楽しみだ。じゃあ、一ノ瀬君。約束だよ」
 そう言うと由香は上機嫌で駅の改札口に入って行った。
「フッ、まあ、いいか……」
 守は少し戸惑ったが満更でもなさそうであった。
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